アベ相場の再来か──。株価が停滞し、アベノミクスのほころびが見え始めたいま、安倍晋三首相が目を付けたのがGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)だった。GPIFの改革派議員として知られていた塩崎恭久氏を厚生労働相に据え置き、国民の老後資金を株式投資に突っ込むのだという。しかし、安倍・塩崎コンビが仕掛ける株価つり上げ計画に、心配の声も出ている。

「塩崎さんは第1次安倍政権で官房長官(06~07年)をしたとき、政策通だけど調整能力がなくて、評判は散々だった。今回も厚労省の官僚は大変だね」(自民党関係者)

 そもそもGPIFは、企業への政治的介入を避けるため、さまざまな規制がある。前述の直接投資の禁止も、そういった配慮から設けられたものだ。

 GPIFの資産構成比率は、基本ポートフォリオと呼ばれている。現在の日本は、国内債券60%、国内株式12%、外国債券11%、外国株式12%などをベースにして運用している。

 一方、日本以外の国ではどの国も株式投資の割合が高く、「日本も比率を上げるべきだ」との論拠にもなっている。だが、そんな単純な話ではない。

「株式投資の比率が高い他国の年金運用でも、日本のように納入額より年金支払額が多い国ではリスク資産を減らす傾向にある」(いちよしアセットマネジメント執行役員の秋野充成氏)

 こんな事情におかまいなく、安倍内閣は今もGPIF改革を急いでいる。6月3日には、安倍首相は次回の基本ポートフォリオ見直しを前倒しするよう厚労相に指示。早ければ今月中にも公表されることになった。それには、こんな背景もあるようだ。

「4~6月期のGDPは、消費増税の影響で年率換算で前期比6.8%減と厳しかった。7月以降も回復の兆しは弱い。それでも年末までには消費税の2%アップを決断しないといけない。そこで、GPIFを使って株価をつり上げて、再増税容認の雰囲気づくりをしようとしているのでは」(調査会社関係者)

 国民の納めた年金はいま、政治の道具として利用されているのではないか。GPIFの前運用委員で慶応大学准教授の小幡績氏は言う。

「改革の目的は、あくまで年金運用のパフォーマンス改善のためにある。経済成長のためにGPIFを利用すると、運用収益を損なうことになりかねません」

 リーマンショックのような世界不況で株価が暴落すれば、年金のお金を一気に失いかねないのだ。

 株式運用を拡大するにも、課題は多い。特に難しいとされるのが、民間の運用会社に比べて給与水準が低いGPIFで優秀な人材を確保することだ。

「個別の業界や企業に詳しい優秀なアナリストを大量に雇っても、そのコストを上回る運用成績が出るかはわかりません」(金融情報会社フィスコのアナリスト小川佳紀氏)

 前出の小幡氏は、最近の政界の空気に警告を発する。

「GPIFの出資者は国民です。投資リスクをどの程度まで許容するかは、国民が決めること。そこに政治家が介入すると、悪しき前例が残ってしまう。もっと慎重に発言すべきです」

週刊朝日  2014年9月19日号より抜粋