アスリートにとってケガは当然、深刻な問題。メジャーリーグでは、投手のケガが増えているが、“中6日”にすることで“休息”以外のメリットもあると東尾修元監督は提言する。

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 レンジャーズのダルビッシュ有が、先発投手の中4日について提言したのはメジャーリーグのオールスターの前日会見だったな。

「(中4日は)絶対に短い。120~140球を投げさせても中6日あれば、じん帯の炎症はクリーンに取れる」と言った。

 メジャーでこれだけトミー・ジョン手術を受ける投手が増えている現状を見ると、その意見にうなずきたくもなる。

 ただ、一つ前提にあるのは、日本球界からメジャー移籍した投手は、中6日が体に染みついているという点だ。中4日が当たり前のメジャーで最初からプレーしている投手は、どう考えているのだろう。頭の中の意識まで、中4日で訓練されている投手は、肘(ひじ)や肩の治癒力も違う。中6日で慣れている投手は、中4日にする時に、無理が生じるという部分はあると思う。

 もちろん、近年は球種も増え、筋力トレーニングなどでパワーは増した。肘や肩のインナーをどれだけ鍛えても、負担増に追いつかないという事情もある。私が現役時に中2日や3日で投げていたのとは違う。中6日のほうが、しっかりと炎症を抜き、登板試合にパワーを集中できる。

 さらに調整にも大きな違いが出る。中4日だと、疲労を抜くだけに終わってしまうが、中6日あれば、1日を「パワーアップ」にあてることができる。自分の弱点である部分を鍛え、ブルペンで球数を増やすことも可能だ。中4日の場合は、登板間のブルペンは40球前後。球種の多い投手だと2、3球で次の球種を投じる。これでは、制球力をつけることにはつながらない。シーズン中も体の強化やスキルアップを図るという点では、中6日のほうが圧倒的にいい。

 メジャーでも、今後は先発5人から、6人に増やす球団も出てくるだろう。その時に大きな問題になるのは、ベンチ枠の問題だ。日本では1軍登録は28人いて、ベンチ入りは25人。つまり3人は先発を余計に登録できる。メジャーは25人ちょうど。まずこの枠を拡大しなければ始まらない。

 球団からすれば、選手を多く抱えることになり、総年俸が上がる。メジャー在籍年数に応じて額が決まる年金にも、大きな影響が出るだろう。球団、大リーグ機構も出費増は嫌うはずだ。今は先発投手にも、年俸30億円をもらう選手が出てきている。トップ選手の年俸に、ある程度の上限を設けるなど、球界全体で対策を講じる必要がある。

 球数の議論もリンクしてくると思うが、疲れた状態でどれだけ全力で投げる必要があったかで1試合の疲労度は変わる。100球で疲れる時もあるし、130球投げても平気な場合もある。球数よりも登板間隔のほうが、投手にとって重要であるのは間違いないよな。

 ただし、だ。登板間隔が空くことで、先発投手が楽だと感じるのはよくない。空いた時間をどう有効活用するのかが大事だ。冒頭にも話したが、中4日で慣れている投手は、頭の治癒力も高い。「中6日にすれば故障が減る」とイコールで結びつけるのもよくない。投手の質の低下につながる可能性だってある。

 今は科学的に体の構造も解明され、細かな炎症も医学で発見できるようになった。だが、そこから得た情報を生かすも殺すも、選手の意識次第であることは、忘れてはならないと思うよ。

週刊朝日  2014年9月12日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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