藤巻健史「銀行はさほど現金を持っていない」

連載「虎穴に入らずんばフジマキに聞け」

 “伝説のディーラー”と呼ばれた藤巻健史氏は、「マイナス金利政策」を提唱する。その理由とは…?

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 銀行とは「うなるほど現金を持っている」と思っている人がほとんどだろう。だからこそ銀行強盗の映画が存在する。しかし現実には、銀行には現金はほとんどない。

 私が入行した邦銀の支店は、現金を1千万~2千万円しか保有していなかったと記憶している。

 毎日、多額の現金が引き出されるが、その一方で、多額の預金入金もある。その差額分と多少の余裕があるだけなのだ。利益を生まない現金など余分に保有する理由はないし、多額を持っていればそれこそ銀行強盗が怖い。

 多額の現金を引き出すと予告があった時は、日銀の代理店に行って、現金をおろして用意したし、支店に現金がたまりすぎれば日銀の代理店に預けた。日銀の当座預金口座から現金を引き出したり、入金したりしたということだ。

 皆さんが民間銀行を利用するように、民間銀行は日銀を利用している。だから民間銀行は最小限の現金しか保有していないのだ。

「インフレにするには日銀がヘリコプターで紙幣をばら撒けばよい」とか、「日銀は国債購入のために紙幣を刷りまくり、国に引き渡している」という表現は、理解のためのたとえだ。量的緩和とは実質、民間銀行の当座預金が増えることである。

 私がマイナス金利政策(日銀に置いてある民間銀行の当座預金の残高に罰金をかける=金利を払わせる)を主張すると、「そんなことをしても銀行は手元に現金で保有してしまうから融資は伸びない」と識者から反論を受ける。

 だがそれは実務を知らないゆえの反論で、銀行がすべてを現金で持っていたら支店中が現金で埋まってしまうし、行員より多くの警備員を雇う必要が出てくる。第一それだけの現金紙幣は世の中に存在しないだろう。

 マイナス金利政策下においては、民間銀行は、預かった預金を融資にまわすか、他行に貸すか、国債購入などの運用にまわすしかない。全部を現金で保有するなどできないからだ。

 日銀の当座預金に置いておけば多額の罰金を払わされるのなら、「金利をあげるからお金を借りて頂戴ね」という話になる。借りれば金利をもらえるのだから、借りるほうの意欲も高まるはずだ。

 もちろん銀行は預金者からは金利をもらう。「お金を預かってあげるから保管料くださいね」という話だ。「そんなことしたらタンス預金が増えるだけ」と言うなかれ。タンス預金では火事も泥棒も怖くて外出もできない。

 私のブログの読者から「9.11のテロの後、金と金貨を早々に買い込みました。ところが、3倍以上に値上がりした金と金貨は、自宅に侵入した泥棒に全部盗まれてしまいました」というメールをいただいたこともある。

 私なら金利をもらえるドル預金をする。皆がそうすれば、円を売ってドルを買う動きが増えるから、円安ドル高となって景気も大回復である。「銀行は現金を大量保有しない」ということを理解すれば私の提唱するマイナス金利政策も理解しやすくなりませんか?

週刊朝日  2014年9月5日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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