家族を疲れさせ、追いつめる徘徊を、防ぐことはできないのだろうか。

「認知症の徘徊ほど難しい問題はないのです」

 そう話すのは、訪問医療を20年以上続ける精神科医(浅草ファミリークリニック理事長)の川﨑清嗣さんだ。一言で徘徊といっても、意識がクリアで外に出ていくものから、せん妄など軽い意識障害の問題行動として外に出ていくものなど、原因やパターンはさまざまだという。

「認知症で時間や場所がわからなくなると現実感も失われて徘徊が起きやすくなります。ただ止めるのではなく、本人は家族と違う意識空間にいることをまず知ってほしい。施設や病院によっては、安全に徘徊をさせるために回廊をつくっているところもあるのです」

 徘徊にもいくつかの傾向がある。とにかく家から出たがる場合は、本人の記憶の中の居心地のよかった場所や好きな環境を探し求めていることも少なくないという。

 川﨑医師は、

「外出させないよう鍵をつけたりする前に、室内環境も確認して」

 と話す。たとえば、介護やバリアフリーのために家をリフォームしたり、間取りを便利にしたりすることが、逆効果になることもあるという。自分の家と本人が認識できる「古いシミ」や「古い家具」などの目印が見えなくなり、不安に陥ることもあるというのだ。

 家よりもデイケアが居心地がよい場合、徘徊の「ゴール」がデイケアの場所だったということもあるとか。

 
 そんなときは、本人のなじみのある物を置くなど、家の居心地をよくすることで徘徊防止が期待できる。

 家族の表情や精神状態も大切だ。川﨑医師は介護する家族に、「鏡を見てほしい」と呼びかける。

「怒鳴る家族の姿が、認知症の方には『怖い。誰?』と映ることもある。介護者も“環境”の一つなので、家族が落ち着くと、徘徊が治まるケースを数々みてきました」

 習慣が徘徊につながることもある。たとえば、いつも夕食の買い物をしていた人は、認知症になって買い物の必要がなくても、夕方になると外出しようとすることがある。その場合は、配膳など別の仕事をしてもらうといい。

「別の役割により、参加意識を持ってもらうのがコツです」(川﨑さん)

 そもそも徘徊のためには「体力」が必要だが、それをうまく消費させることも徘徊を防ぐ方策だ。

「デイケアやデイサービスがない日に徘徊する方もいます。運動でも作業でも、日中に体を動かすのは夜の睡眠に影響するのでとても大事。休日に家族に時間があれば、一緒に汗をかくのもお勧めです」

 医師などに相談せず、抱え込むことで症状がひどくなることもある。ある家族は、徘徊に困り果て、父親の脚に太い鎖をじゃらじゃらとつないでいた。この父親の認知症はかなり進んでいたが、介護保険にも入っていなかった。

「家族内で抱え込まず、介護のプロや医師など第三者に介入してもらうことは重要なんです。方法はひとつではないのですから」

週刊朝日  2014年9月5日号より抜粋