大学4年生のとき、三宅弘城さんは「親子の縁を切ってもいいから、芝居をやっていきたい」と、電話で母親に打ち明けた。すると、「一人息子がやりたいと言っていることに反対なんてしないのに、どうして“親子の縁を切ってもいい”なんて言うの」と泣かれてしまったことがある。行き過ぎた意思表示だったと、電話を切ってから反省した。芝居を志したことなど一度もなかった。音楽は好きだったけれど、大学に進んでから、音楽の趣味の合う人に出会えなくて、「このまま就職するのかな」と半ば諦めかけていたとき、「ナイロン100℃」の前身である「劇団健康」の芝居に出会った。「芝居でも、こんなにパンキッシュな表現ができるんだ」と衝撃を受けた。

「チラシに、“キャスト募集”ってあったので、履歴書と写真を送りました。オーディションでは、バック転といかりや長介さんの物真似をして……(苦笑)。当時は主宰のKERAさんの“有頂天”っていうバンドがすごい人気で、オーディションに来たほとんどが女の子でした。60人中男は2人か3人。とりあえず男をとっておこうって感じで(笑)」

 オーディション合格から5年後に、「ナイロン100℃」の旗揚げメンバーとなり、以降、主要俳優として“セッション”と呼ばれる公演のほとんどに出演。「社長吸血記」は、その42回目のセッションとなる。

「映画のポスターの一番上に自分の名前をとか、そういう“オレオレ”なところは、あまりないかもしれない。役者を続けながら、“イイ顔になれればな”とは思いますけど」

 宮藤官九郎さん、阿部サダヲさんらと、パンクバンド「グループ魂」を組み、ドラマーとしても活動しているが、固定メンバーになったことも、「大人になって初めて、音楽の趣味が合う人たちと出会えたことも嬉しかった」と話す。

 2011年からは、どんな要望にも全力で応える執事・鎌塚アカシを主人公にした倉持裕さん作・演出の人気シリーズで主演を務めている。

「マネジャーに“やってみたい演出家さんは?”って訊かれて、“倉持くん”って答えた直後に、お話を頂いたんです。実はそのときは水面下で話が進んでたらしくて、あとになって、“相思相愛だったんだ”って(笑)。でも、そういう嬉しいことがある半面、役者をやめようかって思うくらい追い込まれた作品もあります。去年ですけど、松尾スズキさんの『悪霊』っていう舞台のときは、本当に追いつめられました。ただ、いざ幕が開いたら、評価していただけたので……。“流した汗はウソつかない”じゃないけど、悩んだだけのことはあったのかな、と」

 自己顕示欲はあまりないという三宅さんに、「ウケたいとか、モテたいという欲はありますか?」と訊くと、「もう、いつでもウケたいし、モテたいです!」と力強く答えた。

週刊朝日  2014年9月5日号