広島市では山のふもとまで宅地になっていたことが被害を拡大させた (c)朝日新聞社 @@写禁
広島市では山のふもとまで宅地になっていたことが被害を拡大させた (c)朝日新聞社 @@写禁

 死者は49人、行方不明者は41人(23日現在)と惨劇を生んだ広島市の“同時多発”土砂災害。今回の土砂災害は、同時多発的に31カ所で発生。なぜ、山津波はこれほどまでの規模に発達したのか。それには二つの要因が指摘されている。

 一つは「真砂土(まさど)」と呼ばれる軟らかい地質だ。真砂土とは花崗岩(かこうがん)が風化してできたもので、広島市北部一帯に広がっている。砂防学会の元会長で京都大学の水山高久教授(山地保全学)はこう解説する。

「真砂土は、地面から厚さ1~2メートルほどまでが砂状になっている。水を含むと粘着力が弱く、崩れやすい。たとえるなら、砂場遊びの山に水をかけたら崩れるような感じです」

 大雨などにより、地面から厚さ2メートル程度までの表層土が崩れることを「表層崩壊」という。今回も表層崩壊した真砂土が、堆積物を巻き込みながら谷沿いを一気に下って山津波となり、ふもとを直撃した。

 恐ろしいことに、真砂土が存在する花崗岩地帯は広島県だけではない。特に東海地方から西日本に集中している。京都大学防災研究所の千木良雅弘教授(応用地質学)は、「真砂土は、日本の国土の約13%を占めていて、特に山地部に多く存在している」と話す。

 この軟らかい地質を、局地的な集中豪雨が襲った。これが、多くの死者を出したもう一つの要因となった。

 防災科学技術研究所(茨城県つくば市)が21日に発表した資料によると、20日未明の積乱雲は高さ15キロメートルにまで発達。安佐北区可部町上原では、20日午前0時から同6時までの間に238ミリの降雨を観測した。被災地の現地調査をした広島工業大学の田中健路准教授(気象学)は、そのメカニズムをこう解説する。

「広島市の上空には数日前から湿った空気が大量に流れ込み、大気が不安定な状況でした。通常、積乱雲は雨を降らせてから数十分で消えます。ところが、風上側で積乱雲が次々に発生してそれが一直線に並び、局地的な豪雨を降らせる『バックビルディング現象』が起きたと思われます」

 これまでにない豪雨に加えて、被災地に押し寄せた泥や岩には真砂土のほか、ごつごつとした硬い「流紋岩」も含まれていた。これは、バックビルディング現象によって真砂土だけではなく、水を含んでも流れにくい地層まで崩れていたことを示唆している。

(本誌取材班=上田耕司、西岡千史、永野原梨香、牧野めぐみ/今西憲之)

週刊朝日 2014年9月5日号