13日発表の4~6月期の国内総生産(GDP)は消費増税の影響で大幅マイナス。アベノミクスは正念場だが、安倍首相は強気の姿勢だ。その背景には財界を「支配」した余裕があるという。首相との“密着度”を調べると、あの「実感なき好景気」の再来を望む姿が見えてきた。

 下の表は新聞の政治欄に掲載される「首相動静」に登場した財界人をカウントしたものだ。第2次安倍政権が誕生した12年12月26日から今年8月9日までの約1年8カ月分を本誌が独自に集計した。こちらは「お友達人脈」に近い。

 こうした財界人脈は政権にどのような影響を与えているだろうか。いちよしアセットマネジメントの秋野充成・執行役員は「トップセールスの成果」を挙げる。

「安倍首相は積極的な経済外交で日本製品を売り込んでいます。JR東海の葛西敬之氏が総理と頻繁に面談しているのもリニアモーターカーの整備など、政府主導の面が必要だからでしょう。榊原定征会長の東レも水処理でインフラ輸出関連です」

 元経産官僚で、現在はシンクタンク「青山社中」筆頭代表を務める朝比奈一郎氏は「何より政権の安定を評価したい」とする。

「政財界がオールジャパンの布陣で団結しています。結果、無意味な権力闘争が激減し、それこそ民主党政権の『決められない政治』とは真逆の状況ですね」

 だが、経団連の姿には「和解」というより「降伏」という言葉が浮かぶ。財界史を専門とする都留文科大学准教授の菊池信輝氏は「経団連史上、ここまで政治の介入を許したのは初めてでしょう」と分析する。

 
「バブル崩壊後、日本経済は大きな痛手を被りました。名門企業も財界活動に注力する余裕はなく、『財界天皇』が政界の首に鈴をつけるという抑止力が消滅しました」(菊池氏)

 例えば今年1月には経団連、経済同友会、そして日本商工会議所の経済3団体は安倍首相に中韓との関係改善を求めたが、現在のところその提言が政策に反映された気配はない。

「オールジャパンの財界人と言えば聞こえはいいですが、やはり矛盾をはらんでいます。実際、安倍政権は賃上げと残業代カットを同時に進めるといった『アクセルとブレーキを両方踏む』ような政策を実行しようとしました」(同)

「団結しているメンバーが問題だ」と指摘するのは経済評論家の三橋貴明氏だ。

「政界と財界が結びつくことは必ずしも悪いことではないのです。ですが今の財界は、いわゆるグローバリズムの信奉者しか存在しません。つまり日本人の人件費が下がると『海外での競争力が上がる』と喜ぶ人たちということです」

 三橋氏が問題視するのは、経済政策の立案過程に労組や中小企業の代表が参画していないことだ。一覧表では連合や日本商工会議所の存在感が低下しているのがわかる。

「例えば55年体制下なら政府の審議会に労組代表が加わって政策決定に関わるのは珍しいことではありませんでした。労組だけでなく、国内市場を中心とする中小企業も人件費の上昇を『購買力の増加』と肯定的に受け止める傾向があります」(三橋氏)

 
 平たく言えば、大企業の利益だけが優先され、国内の雇用は軽視するという経済政策だ。いや、非正規雇用で人件費を安く抑え、大企業が輸出で儲けるという経済政策は以前にも実施された。小泉政権による「実感なき好景気」だ。

 前出の菊池氏も「首相動静ランキングに登場する財界人で国内投資を重視する人はいないはず」と指摘する。竹中平蔵氏を描いて大宅賞を受賞した『市場と権力――「改革」に憑かれた経済学者の肖像』(講談社)の著者、佐々木実氏も「議事録を読めば、外国人投資家が日本をどう見ているかという話が多い。竹中氏の活躍は、株価ばかり重視する安倍政権の無節操さを示している」と問題視する。

◇第2次安倍内閣「首相動静」経済人記載回数ランキング
順位/名前/年齢/役職/財界活動/登場回数
1位/葛西敬之/73/JR東海名誉会長/元中部経済連合会副会長/17
2位/米倉弘昌/77/住友化学相談役/第12代経団連会長/経団連名誉会長/10
3位/古森重隆/74/富士フイルムホールディングス会長兼CEO/8
4位/今井敬/84/新日鉄住金相談役名誉会長/第9代経団連会長/経団連名誉会長/7
   奥田碩/81/トヨタ自動車相談役/第10代経団連会長・経団連名誉会長
   茂木友三郎/79/キッコーマン名誉会長/経団連常任理事・経済同友会終身幹事・日本生産性本部会長
7位/牛尾治朗/83/ウシオ電機会長/経済同友会特別顧問・日本生産性本部名誉会長/5
   長谷川閑史/68/武田薬品工業会長兼CEO/経済同友会代表幹事
9位/青木拡憲/75/AOKIホールディングス会長/4
   三木谷浩史/49/楽天会長兼社長/新経済連盟代表理事
   御手洗冨士夫/78/キヤノン会長兼社長/第11代経団連会長・経団連名誉会長
   三村明夫/73/新日鉄住金相談役名誉会長/日本商工会議所会頭
   渡文明/77/JXホールディングス名誉顧問/元経団連審議員会議長
14位/榊原定征/71/東レ会長/経団連会長/3
   佐治信忠/68/サントリーホールディングス会長兼社長
   長瀬朋彦/61/イマジカ・ロボットホールディングス副会長
   似鳥昭雄/70/ニトリホールディングス社長

週刊朝日  2014年8月29日号より抜粋