“伝説のディーラー”と呼ばれた藤巻健史氏は、円が暴落した時のリスクを避けるため外貨資産を持つ必要があると自身の見解を示す。

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 今夏に行ったハワイのホテルをチェックアウトする際、眼鏡をはずして、じっくりと請求書を精査した。現地の習慣に倣ったのだが、なんと、エ、エ、エ? 前日の食事代が1万2千ドルとあるではないか。当然、文句を言ったら即座に訂正してくれた。そりゃそうだろう。家内アヤコと2人で1晩で約120万円も食べたら、間違いなく、おなかがパンクするか、痛風の発症だ。どうも他人の結婚披露宴の請求書が紛れ込んでいたらしい。米国人が、請求書を精査する理由を身をもって理解することができた。自分のことは自分で守らなければならないのだ。

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 財政が破綻すれば、政府といえども国民を守ることができないのだから、自分で自分の身を守ることを考えておくべきだ。日本の財政がここまで悪化した以上、保険として外貨資産を購入しておく必要があると、私が主張している理由だ。万が一、財政が破綻したり、それを避けるためにハイパーインフレ政策が取られるのなら、円は暴落する。

「財政破綻をした国の通貨など誰もいらないから」と説明ができるし、購買力平価でも説明できる。日本のタクシー代2キロ700円、米国のタクシー代2キロ7ドルなら「為替は1ドル=100円」、それぞれが7千円、7ドルであれば「為替は1ドル=千円」というのが購買力平価だ。

 冒頭に書いたように米国の事務はずさんだ。しかし、総合力で見れば米国は経済、政治、軍備ともに世界ナンバーワンの国家だ。

 どの保険でも入る時は、「強くて安定した会社」を加入先に選ぶだろう。それと同じ考えで、購入すべき外貨資産の中心は世界最強の国の通貨・ドルだと思っている。その上で先進国通貨に多少分散すれば理想的だ。

 そういうとすぐにドル預金を考える人がいるが、私は「今はドルのMMF(マネー・マーケット・ファンド)のほうがいいですよ」と申し上げている。

 外貨預金は元本保証(為替で損をする可能性はある)なのに対しMMFは元本保証ではない。しかし、ドルのMMFは、主として1年未満の米国国債や一流企業の1年未満の社債で運用されている。だから元本割れの可能性は低いだろう。預金とMMFは実質的に大きな差はないのだ。

 ところが税制が大きく違う。外貨預金の為替の利益は雑所得として確定申告が必要な総合課税だ(一つの会社だけから給料をもらっている人で、給料・ボーナス、退職金以外の収入が、20万円以下の人を除く)。収入の多い人の税額は馬鹿にならないし、その年に、雑益がなければ、為替で損をしてもその損を差し引けない。為替で損をした場合と利益を出した場合とが著しく不均衡なのだ。

 一方、ドルのMMFは、2015年末までは換金時の利益が非課税なのだ(16年からは申告分離で税率は20%となる)。ドルのMMFは、日本にある証券会社や銀行で簡単に買える。

 倒産リスク(倒産したら返済されないリスク)に関しては、ドル預金は預金した銀行に対するリスクなのに対し、MMFは原則、運用会社に対するリスクである。購入した銀行や証券会社へのリスクではない。

週刊朝日  2014年8月29日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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