先月24日、経団連は恒例の夏季フォーラムを開催した。日本トップクラスの財界人が集い、各界の専門家も交えて意見交換を行う。

 今年は財界と政治の関係も議題となり、経団連は「緊密に連携し、日本再興に取り組む」との結論に達した。終了後のレセプションでは安倍首相も挨拶で「官民挙げて強い日本経済を取り戻す」と呼応した。

 だが、このフォーラムで注目を集めたのは討議の内容ではない。会場と日程が話題を呼んだのだ。これまでは軽井沢で2日間だったが、東京・大手町の経団連会館で1日に短縮された。

 表向きの理由は翌25日から安倍首相が中南米に外遊し、経団連幹部の同行も決まっていたため。だが真の背景は今年6月に新会長に就任した榊原定征・東レ会長が安倍政権との関係修復に注力し、異例の「配慮」を行ったというのだ。

 元共同通信編集局長で、政治ジャーナリストの後藤謙次氏が解説する。

「現在の経団連と政権の関係を見るためには、前会長である米倉弘昌・住友化学相談役と安倍首相の間に確執があったということに着目しなければなりません。何しろ首相は米倉氏を『あの人』と呼び、名字を口にしなかったほどです」

 そもそも米倉氏は、民主党政権だった2012年1月に自民党大会に出席して環太平洋経済連携協定(TPP)参加の必要性を主張。反対派の議員から激しいヤジを浴びせかけられる“トラブル”を引き起こした。

 
 さらには野田内閣が衆院を解散した同年12月の総選挙の前にも、安倍氏が主張する「異次元の金融緩和」を「無鉄砲」と一刀両断。

 しかし総選挙が自民党の圧勝となると態度は一変。選挙中までの発言を「悪意があったわけではない」と釈明し、安倍氏から「お叱りを受けたことは事実」と明かした。その上で外交姿勢などを持ち上げてみせたのだが、やはり厳しい“ペナルティー”が待っていた。

 安倍政権は経済財政諮問会議を「マクロ経済政策の司令塔」と位置づけるが、民間議員の選出で「米倉外し」が断行されたのだ。

 民間議員の“財界枠”は2人。経団連会長は最重要候補のはずだったが、結果は経団連のライバルともされる経済同友会で副代表幹事を務める小林喜光・三菱ケミカルホールディングス社長と、経団連からは副会長の佐々木則夫・東芝副会長が選出された。

 産業競争力会議でも、経済同友会の代表幹事である長谷川閑史・武田薬品工業会長、副代表幹事の新浪剛史・サントリーホールディングス顧問、そして新興IT系の新経済連盟を率いる三木谷浩史・楽天会長兼社長という顔ぶれになった。

 経団連の焦りは想像に難くない。そのため、6月に経団連新会長に就任した榊原氏は、当初から安倍政権の積極支持を鮮明にしていた。それが冒頭の夏季フォーラムにつながるわけだが、経団連の“反省”を政権はどう評価したのだろうか。

「7月4日、経団連の副会長で事務総長だった中村芳夫氏に内閣官房参与の辞令が交付されました。中村氏が政権との関係修復に尽力していたのは知る人ぞ知る事実。これで安倍首相と経団連の“手打ち”が行われたことになります」(前出の後藤氏)

週刊朝日  2014年8月29日号より抜粋