お盆に故郷の山口県に“お国入り”をした安倍晋三首相(59)──。12日、岩国空港に降り立った安倍首相が最初に向かったのは、3月に肺がんで亡くなった山本繁太郎・前山口県知事(享年65)の遺族宅だった。

 しかし、滞在時間はたった5分間で、線香をあげ、「亡くなられて残念」と遺族に告げ、山本県政を振り返ることも感謝の言葉を発することもせず、そそくさと席を立った。

 そして沿道で待っていた支持者に手を振りながら走り去った。

 地元の住民はこう言う。

「息子に先立たれた父・真太郎さん(92)は、複雑な心境だったと思います。県知事選で当選した2012年7月、みんなが『おめでとう』と喜んでいるときに真太郎さんだけが『当選しても命がなければ、駄目』と沈み込んでいた。出馬する時点で息子が病に侵されていることを知っていたお父さんは、『治療に専念し長生きしてほしい』と本心では願っていたに違いありませんから……」

 肺がんが進行中で職務遂行に支障をきたしていた山本前知事は昨年9月、抗がん剤などの影響で髪が抜けきってもなかなか辞職を決断できなかったという。

「山口県知事選で病気の山本さんを担いだのは、安倍首相でした。山本さんが早期辞職すれば、ずさんな候補者選定をした政治責任を問われかねない。勝てる後継の候補者が定まるまでは、辞めるに辞められなかったのでしょう」(地元住民)

 年老いた父を残して亡くなった山本前知事は、「集団的自衛権行使容認」の悲願達成のために抜擢された小松一郎・前内閣法制局長官の姿と重なり合う。

 二人ともがん治療に専念できないまま、安倍首相への“ご奉公”のため、殉職したようにみえる。

(横田 一)

週刊朝日  2014年8月29日号