島田洋七「介護も人生も見返りを求めるとしんどくなる」 (2/2) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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島田洋七「介護も人生も見返りを求めるとしんどくなる」

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 それは、介護を始めて1年が経とうとしていた日のことだった。その日も俺は、オカン相手に好き勝手に話をしていた。

「じゃあ、俺はそろそろ帰るわ」

 1時間近く話をしたところで、すっかり満足して施設を出た。いつもならすぐにクルマに乗り込むところだけど、その日は何の気なしに施設のほうを振り返ってみた。

 施設の窓は、一つだけ開いていた。その窓から、オカンがこちらに向かって手を振っていたのである。

「あんた、今まで気づかんかったん? お母さん、ずっと手振ってたで」

 嫁によると、介護施設に入った頃からずっと、オカンは俺のほうに手を振っていたそうだ。窓辺に他の人が立っているときはその人をどかしてまで俺を見送ってくれていたのだ。

 俺が気づかないことに不満そうにするわけでもなく、満面の笑みを浮かべながら、俺に向かって全力で手を振っている──オカンのその姿に、教えられたような気がした。

 オカンが俺に手を振っていたのは、純粋に感謝の気持ちを表してくれていたのだと思う。そこに「せっかく手を振ってるんだから気づいてほしい」という、見返りを求める心は感じられなかった。

 介護も人生も、見返りを求めるとしんどくなる。「こんなに世話をしてあげてるのに」と思うと、つらくなってしまう。でも、「こうしてあげたい」と思ったことを素直にしていれば、ストレスを感じることもないはずだ。

 その日を境に、俺も振り返ってオカンに手を振るようになった。もちろん、義務感からではなく、オカンを喜ばせたくて手を振っていたのだ。

週刊朝日  2014年8月22日号


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