メディアで話題になっている9月の内閣改造。石破茂幹事長が注目されているが、ジャーナリストの田原総一朗氏は、安倍内閣にとって重要なのは経済再生担当相や総務相だという。

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 9月初旬には安倍晋三首相が内閣改造を敢行するだろうが、どのような改造が行われるかが、いまマスメディアの大きな話題になっている。

 もっぱら話題の的なのが、石破茂幹事長だ。安倍首相は7月24日に官邸で石破氏と約1時間会談し、新設する安全保障法制担当相への就任を打診した。だが、石破氏は難色を示して、回答を保留したと言われている。

 安倍首相は来年9月の総裁選を見越し、石破氏を閣内に取り込んで封じ込めたいと図っている。それに石破氏は抵抗しているというのだ。石破氏周辺からは、「幹事長続投でなければ、どの閣僚ポストも断り、無役で次の総裁選に備えるべきだ」との声が上がっているようだ。

 だが、安倍内閣にとって本当に重要なのは安保担当相ではなく、甘利明氏が務める経済再生担当相や、新藤義孝氏が務める総務相のはずだ。このポストに誰が座るかでアベノミクスの成否が決定的になるのだが、なぜか、この問題はまったく話題にあがっていない。

 リーマン・ショック以来、経済成長の時代は終わったというのが多くの経済学者たちの常識となっていた。だから不況を甘受するしかないというのだ。それに対してアベノミクスは再び経済を成長させ、景気をよくするという、学者たちの「定説」に対するチャレンジであった。

 そのためであろうか、昨年の春までは、「アベノミクスはバブルであり、必ず破綻する」といった本が書店に氾濫していた。ところが、日経平均株価が急騰し1万2千円、1万5千円と跳ね上がると、一転してアベノミクス成功論が大勢となった。

 
 昨年末には、ほとんどの経営者たちが2014年、つまり今年は景気が上昇すると予測した。

 ところでアベノミクスには3本の矢があるとされる。1本目の矢は異次元の金融緩和、2本目の矢は公共事業である。日本国内には需要がなく、どの企業も設備投資をしない。そこで政府が公共事業という需要をつくる。そしてそのための国債を日銀がどんどん買う。つまり円をジャブジャブ刷る。このために急速に大幅の円安となり、株価は急騰した。

 だが、これは景気がよくなったのではなく、期待値が高まったのである。期待に応えてどうやって経済を成長させるのか、それが3本目の矢なのだ。

 ここで断っておかねばならないことがある。日本は1千兆円という膨大な借金を抱えた、世界一の財政赤字の国だ。何よりも必要なのは財政再建計画のはずだ。ところがアベノミクスの1本目、2本目の矢は、ともに赤字増大のばらまき政策である。

 80年代後半には国際競争力が世界一であったのが一時は27位まで落ちてしまったのは、時代がデジタルの時代となったのに、多くの企業の経営者が構造的に儲からなくなった事業を切れず、人員を削減できなかった、つまり意思決定ができなかったからだ。時代に合わなくなった年功序列や終身雇用を変えられず、悪い意味でのなれ合い民主主義になってしまったのだ。

 そこで思い切って規制を取っ払い、企業改革をすることが必要なのだが、担当相たちは実は法人税減税や地方活性化のための財政支援などのばらまきにこだわり、岩盤規制の改革などに懸命に抵抗している。これではアベノミクスの成功はおぼつかない。はたして内閣改造でどうなるのだろうか。

週刊朝日  2014年8月15日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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