幼なじみのクラスメートを殺害し、遺体を解体した長崎県佐世保市の少女A(16歳)。小学校時代から次第にエスカレートする少女Aの攻撃性を亡き母など家族や周囲は危惧。6月には相談を受けていた精神科医が県の児童相談所に「放っておけば、人を殺しかねない」と相談したが、放置され、事件は起こった。

 危険を親が事前に察知していた点では、2000年に当時17歳の少年が引き起こした「西鉄バスジャック事件」に類似している。佐賀市から福岡市に向かう高速バスに牛刀を持って乗り込み、女性1人を刺殺し、女性2人に重傷を負わせた事件だ。当時、少年の母親から助けを求められた精神科医の町沢静夫氏はこう言う。

「母が『鍵をかけてあった息子の部屋に入ると、包丁、ナイフ、牛刀が並べてあって、殺せ殺せと聞こえると記された紙があった』と相談を受けた。家庭内で解決できる問題ではないと捉え、入院治療を勧めました。今回も前兆があったのだから、時間をかけた入院治療が理想的だったと思う」

 町沢氏は、神戸で当時14歳の少年が男児の首を切って中学の校門の前に晒(さら)した酒鬼薔薇事件と少女Aの病理は類似しているとも言う。

「動機は殺して遺体をバラバラにし、快感を感じているので、『サイコパス(精神病質)』と言えます。極端に冷酷で感情が欠如しており、他人に対して思いやりが乏しいことが特徴。先行して動物を虐待している点も共通しています」(町沢氏)

 
 少年犯罪で多くの精神鑑定を手がけた上智大学名誉教授の福島章氏(犯罪精神医学)はこう指摘する。

「思春期の女の子が、母親の死を理解するには時間がかかるのに、父親は数カ月で再婚してしまい、その事実についていけなかったのではないか。父の愛情を失い、感情の動きが激しくなったため、事件の引き金になったと考えられます」

 長崎地検は少女Aの精神鑑定を実施するため、今後、鑑定留置する方針だ。少年犯罪に詳しい関西学院大名誉教授の前野育三氏は言う。

「解剖への興味が強くて人格的に大きな歪みがあるようなので、医療少年院に送致される可能性が高い。神戸の事件でも、医療少年院送致になり約7年の矯正教育が行われました」

 神戸の事件で少年の矯正教育に携わった関東医療少年院元院長で精神科医の杉本研士氏はこう言う。

「人はまず、生理的欲求を満たそうとし、次いで承認され愛されることを求めます。ケンカなど人間関係の程よさというものは原則、家庭で学ばなければならない。少女Aは複数回、小学生時に漂白剤を給食に混ぜ込んだというが、家庭で徹底的に問題を掘り下げただろうか。家庭が機能不全のまま、少女はグロテスクな欲望を発展させたのだろう。模擬家庭なりを作って何年もかけて〝育て直し〟をするしかないと思う」

 少女Aのようなモンスターを育てないため、まず、ものの善悪、他人に共感するという情緒を幼い頃からしっかりと教えることが重要だという。

(本誌・今西憲之、上田耕司、山岡三恵、小泉耕平、牧野めぐみ)

週刊朝日  2014年8月15日号より抜粋