北原みのり「『ロリコン文化』について一緒に考えよう」 倉敷女児監禁事件で 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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北原みのり「『ロリコン文化』について一緒に考えよう」 倉敷女児監禁事件で

連載「ニッポン スッポンポンNEO」

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 少女アニメ好きな49歳の中年男性が、11歳の女児を自宅に監禁した理由は「理想の女性に育てたかったから」。今月19日に逮捕された藤原武容疑者(49)の供述だ。コラムニスト北原みのりさんは、今回の事件の背後に「ロリコン文化の巨大産業化」を指摘する。

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 岡山県倉敷市の小学5年生の女児が監禁されていた事件で、49歳の男が逮捕された。下校途中だった女児を、凶器で脅して車で連れ去ったと供述しており、事件前から、女児の自宅周辺では、男の車や姿が目撃されていた。報道によれば、男は自宅の4畳半の防音工事をし、窓はつけず、外側から鍵がかかるように改築していた。その部屋には「美少女アニメ」のポスターが壁、天井、床にまで貼られており、警察が踏み込んだ時には、女児がパジャマ姿で布団に寝そべったままアニメを見ていたという。警察には「私の妻です」と言い、男は女児の様子を、布団の隣に並べたベッドから眺めていたらしい。男は動機について、「育てて、理想の女性にしたかった」と話している。

 少女が犠牲になる事件が起きるたび、子を持つ親、また「女の子」だった者たちは他人ごととは思えず恐怖を味わう。まずは「どうしたら子供を守れるのか」という議論が早急に求められるはずだが、今回の事件に対するネットを中心としたリアクションには、考えさせられるものがあった。

 男がアニメ好きだったことが報道されると、すぐさまネットを中心に、「アニメと事件を結びつけるな」「オタクを差別するな」という声があがったからだ。

 確かにこういう事件が起きると、犯人像としてイメージされるのは、1989年に連続女児殺害事件で逮捕された宮崎勤のようなオタクだ。数百本ものアニメ作品に囲まれ、引きこもっていた男の強烈な印象を、私たちは四半世紀経っても忘れられない。一方で、今の日本社会では当時とは比べものにならないほど、オタクが認知され、ロリコンコンテンツが巨大産業化しているのも事実だ。

 私はセックスグッズ産業に従事しているが、日々実感するのは日本が世界に類を見ないロリコンビジネス大国であること。例えば男性向けのアダルトグッズショップでは、幼女の身体を模したアダルトグッズの市場は年々拡大し、年間200億円に達しているのではないかと、言われている。これらの商品のパッケージはほぼ全てアニメ絵で、中には赤ちゃんがよだれかけをしたイラストに、「ぱぱいれて」という吹き出しのセリフがついている女性器を模した商品などもある。

 ロリコン系商品は実に多種多様で、アダルトグッズからアニメやゲーム、小学生に見える成人女性を起用したアダルトビデオ、本当の児童を起用したイメージビデオ(性行為はない)などがある。そしてこれらは基本的に18歳以上であれば誰でも購入できるものだ。

 もちろん、日本には児童ポルノ禁止法がある。「児童ポルノ」とは、18歳未満による性(的)行為を表現したもの、ヌード、またはヌードに近い児童の姿が「性欲を興奮させ又は刺激するもの」と定義されている。それなのに先に述べたようなロリコン商品の多くは、規制の対象ではない。

 なぜなら、「ビキニを着た幼児に、一般成人男性は性欲を喚起されない」という前提があるため、小学生がソフトクリームを無意味に舐めていたり、ビキニ姿でシャワーを浴びるシーンをただ見せるような写真集や映像は、「ジュニアアイドル作品」として児童ポルノの規制対象外になるのだ。

 また、アニメのロリコン表現や、幼児の女性器を模したようなアダルトグッズや、児童に見える成人女性が出演するアダルトビデオなどは、多くの国で規制対象だが、日本では「被害者不在」として許容されている。児童ポルノ禁止法は、性虐待から子供を守る法であり、児童の性虐待をファンタジーとして楽しむことは問題ではないからだ。

 この手の話をすると、嫌がる男性が多い。「俺は、ロリコンじゃない」「そんなの一部の変態」と話を終わらせたがったり、「表現の自由だ、当然だ」と説教してきたり、「ロリコンはフツーに趣味」と断定したりする。彼等の反応から改めて思うのは、男性たちの無関心や、ロリコンを「趣味」と言い切る気軽さこそが、ロリコンを巨大産業にしてきたのではないかということ。そのような環境に生きていること自体が、女児や女児を育てる親には非常にストレスだというのに。

●知恵を出し合い議論を深めよう

 先日、「ジュニアアイドル作品」制作に関わっている男性に、話を聞いた。秋葉原では毎週のように、「ジュニアアイドル」の撮影会が行われている。一眼レフを抱えて集まってくる男たち(40代が多いという)は概して大人しく、撮影会の雰囲気は和やかだ。作品自体は、少女がブルマー姿で料理をしたり、延々と縦笛を吹くなど“えげつない”ものが多いが、仲間と共に女児を撮影することで、男の罪悪感を薄れさせる効果もあるという。

 さらに撮影に熱心なのが、女児の母親であることも珍しくない。私が、「母親はどういうつもりなの?」と驚くと「そんなこと、怖くて聞けない」と苦笑していた。彼曰く、明らかに“ポルノ”として消費されているのに、客も含め全員が“アイドル作品”であるかのように振る舞っている。そのような中、母親を問い詰める資格は誰にもない。そんな疑問を呈した途端、「アイドル作品」という「建前」が崩れ落ちてしまうだろう。だから誰もが互いに無関心を装うのだ、と言った。

 もしかしたら今、この社会がうっすらと、そんな状況になっているのではないか、と思った。明らかにこれは行きすぎているのでは?とどこかで引っかかることがあっても、「ただのアニメ」「私には関係ない」と無関心を装えば、巨大化しつつあるロリコン産業など見ないで済む。でも、そこに本当に「被害者」はいないのだろうか。

 倉敷市の事件の男は、女児を「理想の女性に育てたかった」と言った。性衝動を満たすわかりやすい暴力だけが女児を狙うわけではない。自分を唯一の男として崇め、受け入れてほしい、大人より未熟な少女のほうがいい。そんな“よくある”「欲望」の延長に、今回の事件があるのではないか。温かく許容されているロリコン文化の延長に、事件があるのではないか。

 だからと言って、簡単に表現規制を強めることが答えではないだろう。だからこそ知恵を出し合い議論しなければいけない。多くの女児が深刻な被害に遭いつづけている「環境」を、どう改善できるのか。どうしたら女児を救えるのか。どうしたら男を加害者にせずに済むのか。「宮崎勤以降」の25年間で、私たちが「育てて」しまったロリコン文化の「正体」を、真剣に見据えなければいけない。

週刊朝日  2014年8月8日号


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北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表

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