集団的自衛権行使容認が閣議決定された7月1日。安倍晋三首相の会見を見て、作家の室井佑月氏は、その内容だけでなく、マスコミの弱腰な姿勢に苦言を呈する。

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 7月1日、集団的自衛権行使容認の閣議決定がなされて、安倍首相が会見を開いた。どんなことをいうのだろうと思い、テレビを観ていた。あたしは、驚いちゃったね。ぜんぜん憲法をねじ曲げていい説明になってないじゃん。

 5月15日の会見で問題となった嘘パネルがまたまた使われているしさ。邦人輸送の米艦防護パネルね。

 これまでに米輸送艦で邦人が運ばれたケースは存在しないらしいし、そもそも戦争中には米国民ですら、紛争地からの脱出は米軍を頼れないらしいじゃん。

 一部のメディアでは識者が登場し、パネルの大嘘について暴いた。なのに、まだあのパネル使うんだ。どれだけメディア、そしてうちら国民は舐められているんだろうと愕然とした。

 ま、メディアが舐められるのは仕方がないのかもしれないけどさ。なんだよ、会見後のあの質疑応答は? やる気ねーな。ふつうのオバちゃんのあたしだって、もっと的確に疑問について質問できると思うよ。

 まず、嘘パネルについては絶対に質問するよな。

 それに、集団的自衛権行使に反対している人たちは、わかりやすく不安を述べておる。そこの部分を質問しないでどうする?

 
「テロの恐怖について」と「日本の若者が血を流すことについて(日本人が人殺しをするのも厭だよ、あたしは)」だよ。

 北海道新聞の記者が若者が血を流すことについてはサクッと質問していたが、安倍さんはきちんと答えていなかったね。

 質問に対して答えがもらえなかったら、もう一度手を挙げ、「あの××について、答えていただいていないのですが」といってはいけないの? 記者クラブのルールなの? 質問に対して答えがもらえなかったら、普通ならもう一度聞かないか?

 安倍さんは、「自衛隊がイラク戦争や湾岸戦争での戦闘に参加するようなことは決してない」とはっきりいった。つまり、よその国への抑止力のための集団的自衛権行使といいたいんだろう。

 だけど、その言葉をそのまま信じる? それをそのままメディアで報じる?

「TPPについても原発についてもさんざん騙されている国民でありますから、きちんとした確約がないと」

 そのくらい突っ込んでいえってーの。

「日本をとりまく状況が厳しくなっている」との安倍さんの言葉にだって、「そうしているのはあなたじゃないのか」という質問も当然、出るべきだと思うし。

 権力が相手だと、とたんにメディアは弱腰になるのね。小保方さんの記者会見での質疑応答、あの迫力はどうした?

 そういう態度、あたしにはセクハラヤジを飛ばした都議会議員とおなじに見えるわい。

週刊朝日  2014年7月25日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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