一昨年から都内で相次いだ「声優のアイコ」と名乗る女による昏睡強盗事件は、意外な展開をみせた。

 警視庁は今春、ひょう柄の帽子をかぶり、長い髪をいじるぶりっこなしぐさの、アヒル口の犯人の映像を流し、行方を追っていたが、捕まえてみれば、女は“オナベ”だったのだ。

 睡眠導入剤入りの酒を飲ませた相手から金品を奪ったとして、警視庁は7日、東京都杉並区の無職・神いっき容疑者(30)を昏睡強盗容疑で逮捕した。神容疑者と親交のあった飲食店店員の証言。

「神ちゃんはオナベなのよ。いつも男の子の服装で、自分のことは『オレ』って言う。女でいるのが嫌なタイプで、女装しているところなんて見たことがなかった。1年くらい前には、彼女っぽい女の子を連れていたけど、結局、神ちゃんが振ったみたい。忘れられない女の人がいると言っていたわ」

 神容疑者は生物学的性別は女性で、性の自己意識が男性という性同一性障害(FTM)とされ、自身のブログのプロフィル欄にも性別は男性と記していた。

「乳房を取る手術をしたけど、失敗して胸がまた膨らんできたと不満そうでした。下の手術はやってなかったみたい」(同飲食店店員)

 
 数年ほど前までは、東京・新宿歌舞伎町のスポーツバーで働いていたという神容疑者。しかし、本当になりたかったのは役者だった。

「『声優のアイコ』は架空のキャラでしょ。本人は役者としてプロダクションに所属したと言っていたけど、実際はわからない。映画に出たなんていう話も聞かなかったわ」(知人)

 お酒が好きで、飲み始めると、4、5時間は焼酎の水割りを飲んでいたという神容疑者。だが、ここ最近は無職で、飲み代にも困った様子で、生活保護費を受け取るため、杉並区内の福祉事務所に現れたところを逮捕された。住んでいたのは、6畳一間の家賃約5万円のアパート。近くの飲食店店主はこう振り返る。

「成城署の刑事さんが、別の暴行事件の捜査で店に来たんです。ウチの店で神容疑者が食事しているとき、刑事さんも店内にいたんですが、『(神容疑者の)コップとタバコの吸い殻を取っておいてくれ』と従業員に頼んだんです。後日、吸っていたタバコは刑事さんに提供しました」

 9日の送検の際、報道陣を意識したのか、護送車の中でピースサインを作って笑ってみせた神容疑者。「声優のアイコ」による昏睡強盗は十数件に上り、警視庁は余罪を追及している。

(本誌取材班)

週刊朝日 2014年7月25日号