「今日は特別な話をしたいと思っています。私、ドクター・中松は、専門医から『生きるのは来年の年末まで』と宣告されました」

 ドクター・中松氏(86)がこう宣言したのは、自身の誕生日を祝うパーティー会場だった。6月26日に行われたそのパーティーの参加者は、重大発表があると、予め呼び集められた報道陣、支援者などで、会場からは、どよめきが起こった。

 白衣にミッキーマウスをあしらった黒の蝶ネクタイで現れた中松氏は、パーティー開始からまもなく、大型スクリーンを用い、昨年12月に「前立腺導管がん」が発覚した、と病歴の説明を滔々(とうとう)と始めたのだ。

 中松氏によると、前立腺導管がんは前立腺がん患者の中でも100人に1人発症するかどうかという珍しいがんで、最新治療を施しても根治できないという。

 普通なら絶望感で立ち直れない心境のはずだが、中松氏はパーティー終了後、さらにとんでもないことを口にした。

「導管がんを駆逐する治療ロボットを発明します! 治療法は私にもわからない。ただ、わからないことをするのが発明。具体的には消去法ですよ。手術、放射線、抗がん剤が効かないわけだから、それ以外で理論を組み立てて、挑戦していくしかないわけです」

 過去、フロッピーディスクなど歴史的な発明をしてきた中松氏だが、日本の先端医療でも根治できない末期がんをロボットで治すことなど可能なのだろうか。

 千葉大学大学院医学研究院泌尿器科学の市川智彦教授はこう説明する。

「状態を見てないので、何とも言えないですが、治療方法がないのだから、ロボットを開発しても治療のしようがないでしょう。全く現実的ではありません」

 現実は厳しい……。しかし、中松氏は本誌にこう力強く話した。

「今後も諦めずに努力をしていきますよ。他のがん患者の皆さんも、諦めずに私の発明するロボットに期待していてほしい」

 文字どおり、命を懸けた「発明家魂」に期待したい。

(本誌取材班)

週刊朝日  2014年7月11日号