ドラマ評論家の成馬零一氏は、女同士の泥沼の闘いを描いたドラマ「ファースト・クラス」の主演・沢尻エリカが放つ独特の雰囲気についてこう語る。

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 沢尻エリカ主演の『ファースト・クラス』は、ファッション雑誌の編集部を描いたドラマです。

 下町の衣料材料店で働いていた吉成ちなみ(沢尻エリカ)が、ファッション雑誌「ファースト・クラス」の編集部で働くことを通して成長していく物語は、さながら米国映画『プラダを着た悪魔』の日本版といった感じでしょうか。しかしカリスマ女性編集長を頂点とした編集者たちのプロフェッショナルな生き様を描いた『プラダを着た悪魔』と違い、今回の舞台は、社員同士が妬(ねた)み嫉(そね)みをぶつけ合う最悪な編集部。入社してすぐに、ちなみは同僚からの激しいイジメにあうことになります。

 脚本の渡辺千穂は、会社でのイジメを描いた『泣かないと決めた日』と、ママ友グループのイジメを描いた『名前をなくした女神』を手がけたイジメ・ドラマの名手で、今回もその流れをくんでいます。

 このような題材を取り上げて新たな時代を切り拓いたのは、2007年に『ファースト・クラス』と同じフジテレビの土曜ドラマ枠で放送された根津理香脚本の『ライフ』という学園ドラマ。今までなら明確に分けられていた「イジメる側」と「イジメられる側」の境界を曖昧にしたことが、画期的でした。教室という空間で生徒同士が空気を読み合った結果、誰もが被害者にも加害者にも成り得るという「人間関係の力学」によって起こる現象としてのイジメを描いたのです。

 
 しかし、時の流れとは恐ろしいもの。『ライフ』のころは手探りだった人間関係の力学の描写が、『ファースト・クラス』では「マウンティングランキング」という“格付け”の形で表されます。編集部内での上下関係がナレーションで説明され、登場人物の心の声はテロップで流れる。つまり可視化されるのです。それはまるでバラエティ番組のようで、そこまでやるのかと、驚かされます。

 とはいえ、最大の見どころは主演を務める沢尻エリカの存在感でしょう。

 沢尻はかつて映画『パッチギ!』での演技が絶賛されて以降、映画賞を総なめにし、若手女優として高く評価されたのですが、映画『クローズド・ノート』の舞台挨拶で出演の感想を聞かれた時に「別に……」と答えた際の態度の悪さから激しくバッシングされ、仕事が激減してしまいました。

 その後、12年の映画『ヘルタースケルター』で、全身整形の美女・りりこの鬼気迫る演技が大いに注目され、女優として復活したのですが、出演作がなかなか増えないのが現状。おそらく今までのイメージが強烈すぎて、何を演じてもエリカ様という個性が前面に出てしまい、起用しにくいのではないかと思われます。

 そんななか本作は、あえて沢尻エリカという看板を前面に打ち出しています。
 LiLiCoによる冒頭のナレーションでは、「エリカが~」と、吉成ちなみという役名ではなく、沢尻エリカと呼ばれており、物語自体も、社内イジメに立ち向かうちなみの姿と、清純派女優から転落して“ビッチ・ヒロイン”として復活した沢尻の人生を重ねるかのように進んでいきます。

 もはや、彼女が演じられるのは沢尻エリカだけなのかもしれません。しかし、どんなフィクションよりも「沢尻エリカ劇場」というドラマの方が、スキャンダラスでスリリングなのです。

週刊朝日  2014年7月4日号