東京都在住の会社員、吉川登喜子さん(仮名・41歳)は、数年前からわきの臭いと汗の多さが気になっていた。営業の仕事で人と会うことも多いため、夏が近づくと相手に不快な思いをさせているのではないかと不安に思い、精神的にもかなりの負担となっていた。

 そんなある日、書店でわきがやわき汗についての本を探しているときに、五味クリニックのことを知った。

 さっそく五味クリニックを予約し、院長の五味常明医師の診察を受けた。

 五味医師から、わきがは本人が気にすることではじめて治療の意味が出てくることや、臭いの悩みは人間関係の悩みであり、社会生活を円滑に送れないのであれば克服しなければならない重要な問題であることなどを説明され、少し気が楽になった。そして、悩みの度合いと治療によりどこまで臭いをなくしたいかなどを聞かれたあと、臭いのレベルを身体状況から診断するために、耳垢の湿り具合、わき毛の状態、下着の黄ばみ具合、遺伝、汗の状態などを調べられた。その結果、中等度の腋臭症(えきしゅうしょう=わきが)と診断された。

「当院に来院される人は、本人が気にしているほどの臭いのない場合が多いです。まったく臭っていないのに気にして、精神的に病んでしまっている場合もあるので、まず問診が重要です。吉川さんの場合は、わきがはありましたが、手術で根本的にアポクリン腺を切除するほど重症ではありませんでした。本人と相談しながら、治療法を選択しました」(五味医師)

 
 多汗症がエクリン腺と関わりがあるのに対し、わきがはアポクリン腺に関わっている。アポクリン腺は主にわきの下にあり、いわゆるフェロモン放出の機能を果たす汗腺だ。したがって、多汗症とわきがは、同じわきの下に発症するが、その仕組みは別である。

 しかし、アポクリン腺の汗と皮脂腺の皮脂に細菌が作用するとわきがの悪臭となり、それがエクリン腺の汗で薄められ拡散されるため、多汗症がわきがを増長させることがある。

 五味医師は、吉川さんに、汗を減らし、それから臭いの原因を除去する治療として、ボトックス治療と電気凝固法の併用を提案した。

 まずボトックス治療を受けた。これは前述のとおり、わき汗の標準治療だが、エクリン腺の働きを抑えることで汗を止めわきがの拡散を抑えるため、わきが治療にも効果的だという。

 吉川さんの汗はすぐに止まり、1週間後、電気凝固法を受けた。

 電気凝固法は、もともと脱毛法として考案された治療法だ。3~5ミリの細長い電極をわき毛の一本一本に刺し、高周波電流を通して、組織を熱凝固する。長い針を使えば皮脂腺やアポクリン腺もあわせて熱凝固でき、わきがの原因を一掃できる。

 
 吉川さんはその後、1カ月おきに計5回、電気凝固法を受け、わきがは解消された。わき汗も今年の春にボトックス治療を再度受け、症状は治まっている。

 現在、わきが治療はさまざまなものがあって効果は千差万別だ。標準治療がないため、提示された方法に納得してから治療に入るべきだと五味医師は話す。

「わきがの治療適応の判断は、慎重にしなければなりません。まずは、患者さんの精神面をきちんと考慮しながら、治療にあたることが重要なのです」

 患者の悩みがとても強く、わきが臭をなくしたいと希望する場合は、直視下剥離法や皮下組織削除法といった、アポクリン腺を根こそぎにする手術を選択する。

 より小さな傷で臭いを軽減したい場合には、吸引法や超音波法などの実施や、吉川さんのように電気凝固法とボトックス治療の併用療法を選ぶ場合もある。

「さらに軽度の場合には、制汗剤の使い方の指導のみで済む場合もあります。当院を受診する人で、手術が必要になる人は1割程度。安易に手術で治そうとするのは得策ではないことを理解してください。さまざまな治療法を提案してくれる医師とよく相談し、自分に最適な方法を選ぶべきです」(五味医師)

 わきがも多汗症も生命に関わるような病気ではないが、著しくQOL(生活の質)を損なう場合がある。精神的にストレスが強かったり、日常生活に支障を来すと感じたりしたときには、専門クリニックや専門の医師がいる病院で相談したい。

週刊朝日  2014年7月4日号より抜粋