日本の医療をリードする東京女子医科大病院(東京都新宿区)が揺れている。今年2月、麻酔薬「プロポフォール」の不正使用で2歳の男児が死亡した。その事故の対応をめぐって、同大を運営する理事会と大学幹部が激しく対立し、理事全員への退陣要求にまで発展した。亡くなった男児の遺族は置き去りにされている。

 亡くなった2歳男児の遺族の代理人である貞友義典弁護士によると、病院は3月と4月の2回にわたり遺族への説明会を開いているが、自らの非を認めた謝罪はしていない。さらに5月30日にまとめた中間報告書でも、男児が死亡するまでの経過の説明が不十分で、事実関係にも誤りがあったという。

「病院から内容への同意を求められましたが、遺族は拒否しました。病院は、厚生労働省にもこの書類を送っているそうですが、撤回を要求しています」(貞友弁護士)

 病院の関係者は話す。

「遺族からは尿の色の変化など異常を示す兆候があったとの指摘はありました。ただカルテに記載されておらず検証が難しい」

 事故から4カ月経つのに、いまだ真相究明には近づいていない。

 遺族が病院側に不信感を持っている理由は、ほかにもある。

 
「今回の事故では偏った情報がメディアに流れている。なかには、事故の責任を他人に押し付けるために医師が意図的に情報を流しているのではと思われるものもある」(貞友弁護士)

 メディアも巻き込んだ同大の内部抗争劇に、遺族の憤りは募るばかりだ。父親は、息子を助けられなかったことを今も悔やむ。

「これまでプロポフォール投与後に12人も亡くなっていたのであれば、誰かが異常に気付く機会はあったはず。しかも、被害を受けた息子が内部抗争に使われるなんて……。私たちは真相究明をしてほしいだけなのです」

 遺族は5月24日、業務上過失致死などの容疑で警察に被害届を提出。警察も同大に対し、すでに調査を開始している。

 妻を医療事故で亡くした遺族で、市民団体「医療の良心を守る市民の会」代表の永井裕之さんは言う。

「大学と病院が権力闘争をしているとしか見えない。大事なのは被害者と遺族が納得できる真実を明らかにすること。人を排除するだけでは事故は防げず、再び同じ悲劇が繰り返されることを認識してほしい」

 同大の建学の理念は「至誠と愛」。それは医師の自己保身ではなく、亡くなった患者と遺族に向けられるべきではないか。

週刊朝日  2014年6月27日号より抜粋