認知症で行方不明になる人が全国で問題になる中、認知症の予防、地域で安心して暮らせるコミュニティーづくりが急ピッチで行われている。そもそも認知症とはどんな病気なのか。群馬大学大学院保健学研究科教授の山口晴保氏に聞いた。

Q1 認知症とはどのような病気ですか。

 認知症は大脳がつかさどる認知機能が低下する病気です。認知機能とは、「見る・聞く・嗅ぐ・味わう・触る」などの五感を通して脳に入る情報から、自分の置かれている状況を認識したり、言葉を自由に操ったり、計算するなど知的機能を総称する概念です。この認知機能が低下して、人の手助けなしでは生活できないレベルにまで、生活力が失われる状態になることを「認知症」と言います。

Q2 自然な「物忘れ」と認知症の「物忘れ」はどこが違いますか。

 認知症の症状の一つに「物忘れ」がありますが、誰でも加齢に伴い記憶力は少しずつ悪くなります。「具体的な内容を忘れる」のは、自然な物忘れ、「出来事そのものを忘れる」のは、アルツハイマー型認知症による記憶障害という違いで比較できます。例えば、冷蔵庫を開けて消費期限が切れたお肉が出てきたら、「1週間前に買っておいたのを忘れた」と気がつくのは自然な物忘れ。「誰が買ったのか」と、自分が買ったことを忘れていたらアルツハイマー型認知症の疑いがあります。

 
Q3 認知症と間違いやすい病気はありますか。

 認知症と「うつ」は深い関係にあります。レビー小体型、脳血管性の認知症は、うつ的な症状が目立ちます。また、認知症の初期の段階、軽度認知障害(MCI)の段階で「うつ」の状態になると、アルツハイマー型は1.65倍、脳血管性認知症は2.52倍の確率でなりやすいことがわかっています。「うつ」状態では、脳の中にセロトニンという神経伝達物質が不足しているので、ジョギング、水泳、早歩きのようなリズミカルな運動を毎日30分ぐらい続けると、3カ月で脳内のセロトニンが増えてくるという調査結果もあります。

Q4 認知症になりやすい生活習慣、または遺伝はありますか。

 アルツハイマー型認知症の多くは、70歳を超えて発症しますが、中には40~50歳代と比較的若い段階で発症する方もいて、遺伝的な素因を持っている傾向があります。遺伝的なアルツハイマー病は「家族性アルツハイマー型認知症」と呼ばれています。しかし、遺伝性のアルツハイマー型はごく一部。65歳以下で発症する認知症は全体の1%です。また、認知症になりやすい生活習慣は、運動不足が挙げられます。内臓脂肪型肥満に、高血圧、高血糖、脂質異常症のうち、二つ以上を合併した状態を「メタボリック症候群」と言います。このメタボになると、アルツハイマー型の発症リスクが2倍以上に高まるという調査結果も出ています。メタボを防ぐには運動が最も効果的です。こまめに体を動かしましょう。

週刊朝日  2014年6月27日号より抜粋