がん患者を50年以上診て、著書『がん「余命宣告」でも諦めない』で複数の長期生存者を紹介している帯津良一医師は、生き続けるための大切な要素の一つを“朗らかさ”だと指摘する。

「どなたも物事にあまり動じず、長く悩まないという共通項があります。気持ちで負けず、その一方で『いつ死んでもいいぞ』と一日一日を攻め抜く姿勢。大事なことです」

 もう一つ、帯津医師は「余命宣告に惑わされないことも重要な秘訣」と訴える。たいていの医師は、細かく調べず経験から割り出しているに過ぎない。だから患者が数字にとらわれすぎないことが、免疫力低下を防ぐポイントになるという。

 その二つを実践しているのが東京都のオオタケンジさん(仮名・82歳)だ。9年前に結腸がんの末期と告げられた。肝臓や肺などに転移しながらも在宅で治療を続け、免疫力を高める代替医療も少しやっている。この9年間、ほぼまったく変わらない日常を淡々と送る。

 例えば一日をこんなふうに過ごす。

 午前8時に起床。NHK朝ドラを見ながらパンやチーズの朝食をとるほか、妻の特製ニンジンジュースを飲む。正午にはヨーグルトに果物、麺類などでランチタイム。午後はテレビを見たり昼寝をしたり。合間に家から徒歩20分の図書館に行き、夕方は「50年来の日課」という近所のサウナへ。

 オオタさんは若いころから多趣味だったが、肝転移した75歳のときに初めて携帯を購入。メールのやりとりをマスターして、定期検査の結果を3人の子どもたちに「変化なし」などと送信できるようになった。77歳でカルチャーセンターの太極拳や哲学を受講し、家族を驚かせた。好きな芝居にもまめに通い、今も美術館に足を運ぶ。

 昨夏、図書館帰りに熱中症で救急車で運ばれ、11月以降、抗がん剤はやめた。今年5月、右肺にがんが増え続けているにもかかわらず、腫瘍マーカーは下がっていた。主治医は「本人の免疫機能ががんを抑え込んでいるとしか思えない」と首をひねる。

 こうした長期生存者がなぜ現れるのか。

 癌研病院(当時)などで緩和ケア医として15年以上働いてきた行田泰明さん(53)は以前から「がんになっても長生きはできる」と唱えてきた。

「がん細胞には顔つきがあって、進行の速さや部位によって違う。まずは早期に正しく診断されることが大事なんです」

 そんな行田さんに今年2月、がんが見つかった。部位は消化器で、手術をした。合併症などを経て近々退院する。

「がんとわかって決めたことは三つ。私が看取ってきた千人以上の方々から学んだもので、自暴自棄にならない、八つ当たりしない、最後まで闘う。なのに自分は手術後は落ち込んで、笑えなかった。でも『頑張って』という言葉は、とてもうれしく感じました」

 行田さんには、当事者になって初めて気づいたことがある。“わらをもすがる”切実な思いが生きる力になっている。

「病も生の“一部”なんですよね」

週刊朝日  2014年6月20日号より抜粋