球界では海外で活躍する投手が話題となっているが、野球解説者の東尾修さんは、日本にも注目のエースがいると言う。

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 久々にいいものを見たな。5月31日のオリックス巨人戦(京セラドーム)。オリックスの金子千尋と巨人の菅野智之の投げ合いは、これぞエースという意地のぶつかり合いだった。こんな勝負はいつ以来だろうか。田中将大、ダルビッシュ有はメジャーに行ったけど、ちゃんと日本にもエースと言われる投手はいる。延長12回の結末までテレビ中継を見たのも久しぶり。つい引き込まれたよ。

 金子は速球が150キロ出るわけではない。でも下半身から指先への力の伝え方がいい。特に腕が長く見えるよな。それだけ左足にしっかりと体重が乗って、打者に近い位置でボールをリリースしている証拠だ。だから、145キロ前後の球速以上に、打者は速さを感じることになる。

 実は昨年のWBCの選手選考で、最後まで金子の日本代表への招集を検討していた。当初の代表候補選手の中には入れていなかったが、スタッフミーティングでは「潜在能力はダルビッシュに匹敵する」との評価だった。昨年2月5日に山本浩二監督と投手総合コーチの私、そして梨田昌孝野手総合コーチの3人で、オリックスの宮古島キャンプを訪問した。体に不安があり、3月に間に合わないということで最終的に招集を見送ったが、今ではダルビッシュや田中と同じレベルに達しようとしている。

 金子が立つマウンドからは、気迫が伝わってきた。巨人戦では9回までノーヒットに抑えたけれど、味方の援護がなく延長戦になった。9回の裏に回ってきた打席で代打が出されて交代となった時も、金子は悔しそうな表情は一切出さなかった。味方を信じる思い。これぞエース、という立ち居振る舞いだった。

 その思いが、後に続いた投手陣、平野佳寿、佐藤達也、そして決勝ホームランを浴びたが、馬原孝浩まで伝わっていたよ。

 
 毎試合出場する野手と違って、先発投手は5、6試合に1度。ただ、エースの影響力というのは計り知れないよ。登板試合ではいちばん長い時間グラウンドに立っている。捕手をのぞく7人の野手がその背中を見る。マウンドやベンチでのしぐさ、すべてがチームの士気に直結する。そして、他の投手陣もその姿勢を見る。

 金子が投手全体にいい相乗効果をもたらしているのは、1試合でわかったよ。私は西武での現役時代に渡辺久信、工藤公康、郭泰源ら、年下の投手たちに絶対に負けないという気持ちを持っていた。練習一つとってもそうだし、成績も負けないぞと自らにハッパをかけていた。チーム内の競争意識をあおるために意図的にやった部分もある。

 私の現役時代と違って選手の気質も変わった。しかし、金子には、自分の仕事をこなすだけでなく、どうやったらチーム全体の意識を高められるかも考えてほしい。

 昨年は楽天が球団創設初の日本一となった。そこには田中将大がいた。今年はオリックスが1996年以来、セ・リーグでも広島が91年以来の頂点を狙っている。オリックスには金子、広島には前田健太がいる。

 長く優勝から遠ざかっているチームが勝ち切るには、勢いとともにチーム内の化学反応も必要だ。そして、必ずといっていいほどそういうチームには、スーパーエースが存在している。

週刊朝日 2014年6月20日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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