警視庁は6月2日、日本初の女性衆議院議員の一人だった山口シヅエ氏(享年94)の元秘書O氏(63)を、電磁的公正証書原本不実記録の容疑で書類送検した。一昨年、本誌が暴いた「隠された死」のスクープが、ついに捜査当局を動かしたのだ。

 O氏の容疑は、山口氏が2012年4月に亡くなっていたにもかかわらず、同年6月、経営していた不動産管理会社「山口シヅエガーデン」(東京都墨田区)の代表取締役に再任されたとウソの登記をしたこと。株主総会の議事録では、亡くなったはずの山口氏本人が出席したことになっていた。O氏は容疑を認めているという。

 山口氏は都内に複数の不動産を所有する資産家で、O氏は会社の私物化をはかった疑いがある。山口氏の死後、O氏は自身の役員報酬や賞与を年間計500万円以上増額。さらに、自分の息子を新たに取締役に加えていた。

 この不可解な事件の発端は、本誌が12年11月2日号で、山口氏の死去と、O氏による奇妙な「隠蔽工作」を報じたことだった。O氏は山口氏の死に立ち会いながら、当時、山口氏の身の回りの世話をしていたヘルパーの女性たちに「死を公表しないでほしい」と指示。埋葬もせず、ヘルパーたちには「口止め料」ともとれる高額の日給を支払いながら、山口氏の自宅の祭壇に置いたお骨の「世話」をさせ続けた。

 山口氏に夫や子どもはいなかったが、O氏はいとこなどの親族にも山口氏の死を連絡せず、葬儀にも呼ばなかった。死亡届はO氏がいとこの名前を使って出していたが、いとこは本誌の報道で初めて山口氏の死を知ったと証言した。数々の工作を行ったO氏は何者なのか。過去を知る関係者はこう証言する。

「O氏の父親が山口先生の支援者で、先生はO氏を幼少期から知っていたようです。『秘書』といっても元は運転手で、議員秘書をしていたわけではない。先生はO氏を『信用できない』と言って一時は遠ざけていたのですが、07年ごろから車いす生活になると、身辺の世話のため頼らざるをえなくなった。その後、認知症が悪化すると、銀行とのやりとりもO氏が行うようになり、事実上、会社を牛耳っていた」

 O氏には今回の容疑だけでなく、さらに深刻な“疑惑”もかけられている。昨年10月、「山口シヅエガーデン」の関係者男性がO氏を警視庁に刑事告発した際の「告発状」に重大な証言があるのだ。03年2月初旬、O氏は告発者に、にやにや笑いながらこう告げてきたという。

<「山口先生の事務所で先生の通帳を盗んだけど、全然気が付いていないみたいだ。通帳が沢山あるから1つや2つぐらい盗ってもわからないよ」>

 O氏は国産の高級セダンを乗りまわすようになり、10年には5階建ての新築物件を建てて都営住宅から引っ越すなど、金回りも良くなっていった。

 告発者の代理人を務めるユウキ法律事務所の出口裕規弁護士はこう語る。

「こうした状況を考えると、O氏は業務上横領などの財産犯を犯している可能性もあると考えています。捜査の進展に期待したいです」

 山口氏は生前、公益のための財団法人の設立を望んでいたが、O氏の抵抗もあり、かなわなかったという。山口氏には相続人がおらず、残された資産は現金化した上で国庫に納付される手続きが進んでいる。

 明るい性格で「下町の太陽」と呼ばれた山口氏だが、その晩年は悲しいものとなってしまった。O氏はせめて、真実を明らかにすべきだろう。

週刊朝日 2014年6月20日号