6月1日、シンガポールでベトナムのタイン国防相と会談した小野寺五典防衛相。小野寺氏は「ベトナムが問題に冷静に対応していることを支持したい」と語った (c)朝日新聞社 @@写禁
6月1日、シンガポールでベトナムのタイン国防相と会談した小野寺五典防衛相。小野寺氏は「ベトナムが問題に冷静に対応していることを支持したい」と語った (c)朝日新聞社 @@写禁

 中国の“暴挙”が止まらない。自衛隊機に「あわや」の距離まで異常接近したかと思えば、南シナ海ではベトナム相手に船をぶつけるなどやりたい放題だ。そんな習近平国家主席率いる中国を国際会議で強くけん制した安倍晋三首相(59)だが、領土拡大への中国のあくなき野望に、わが国はどう対処すべきか? 注目すべきはベトナムの対応である。

 ベトナム政府は5月7日に会見を開き、中国側の艦船がベトナムの巡視船に衝突して船体が破損する様子などを公開し、「深刻な主権侵害だ」と主張。9日にはさらに、報道各社に映像を提供した。中国政府が「ベトナムの船がぶつかってきた」などと反論する中で、いち早く“動かぬ証拠”を示したのだ。東海大学の山田吉彦教授(海上安全保障)がこう解説する。

「あのタイミングで映像を撮影、公開する準備をしていたベトナム側は用意周到でした。10日からのASEAN(東南アジア諸国連合)の会議の直前に映像が国際社会に流れたことで、中国と近いラオスやカンボジアなども、中国を批判する声明を出すことに反対できなくなった。南シナ海の法的なルールである『行動規範』を早く作り、国際法の下で決着させざるを得ないという流れができてきました」

 ミャンマーの首都ネピドーで開催されたASEANの首脳会議では、中国とベトナムの「全当事者に自制と武力不使用を求める」とする首脳宣言を採択した。中国共産党の機関誌である人民日報は「フィリピンとベトナムは、ASEAN各国に自分たちと同じ立場をとるよう脅迫している」と猛批判したが、東南アジア各国の結束に対する、中国側の焦りが透けて見える。

 中国に詳しいジャーナリストの富坂聰氏はこう語る。

「これまで互いに利害が対立して足並みのそろわなかった東南アジア諸国が、今回の件でまとまり始めている。今や中国は製造業の拠点を東南アジアに依存するようになっており、彼らの意見を無視してまで無茶な行動はしたくない。漁船を沈める動画まで公開され、中国政府もひるんでいるのではないでしょうか」

 海軍力や空軍力では圧倒的に中国に劣るといわれるベトナムだが、国際世論を味方につけることで大国に一矢報いたのだ。

 とはいえ、危機が去ったわけではない。5日に発表された米国防総省の年次報告書では、中国が東シナ海と南シナ海での有事に備え軍事力を増強していると指摘。艦船数の急増に加え、強襲揚陸艦も建造される見通しを示した。国防費は公式発表では約12兆円だが、実態は2割多い約14兆円だとも指摘している。

 一方、日本国内では集団的自衛権の行使容認など、安全保障についての法整備の議論が進められている。

 6月6日には、離島に武装集団が上陸した際に首相判断だけで自衛隊が出動できるようにするなど、「グレーゾーン事態」の運用手続き見直しで自民・公明両党が一部合意に至った。

 だが、年々強大化する中国軍に、法整備だけで対抗できるのか。富坂氏は、東南アジア諸国の動きに注目すべきだと語る。

「今、東南アジア諸国が中国との間で、南シナ海での係争についての法的枠組みを作ろうとしています。日本もその仲介者として参加しつつ枠組みに入って、尖閣諸島の問題にもワンセットで適用させるのが良いのではないでしょうか」

 中国封じ込めに向けて結束しつつある東南アジア諸国の動きにうまく乗ることができれば、日本だけで抵抗するよりは確かに心強い。前出の山田教授は、さらにこんな構想を語った。

「日本と東南アジア諸国が中心となり、アジアの海の資源管理について新たなルール作りをしていくべきです。各国が海洋担当大臣同士の対話のルートを設け、資源の共同利用などについて定期的に話し合っていけばいい。中国は反発するでしょうが、参加しないうちにどんどんルールが決まってしまうとなると、参加せざるを得なくなる。安全保障を前面に出すよりは、各国も連携しやすいはずです」

 南シナ海の問題を視野に入れることで、尖閣諸島の防衛についても、ずっと多くの選択肢が見えてくるのである。

(本誌・小泉耕平)

週刊朝日 2014年6月20日号より抜粋