高血圧によりすでに薬を飲んでいる人でも、生活習慣を変えれば薬がやめられる可能性があるという。では、具体的にどうすればよいか。血圧コントロールと切っても切れないのが、塩分。専門家に対処法を聞いた。

 塩分の過剰摂取と血圧の関係については、いくつかのしくみが明らかになっている。例えば、塩分を摂取すると循環血液量の増加によって血圧が上がる、腎臓が余分な塩分を排出しようとして血圧が上がる、といったものだ。

 逆にいえば、塩分を減らせばそれだけ血圧は下がるということだ。実際、1日の塩分の摂取量が1グラム前後(日本人の平均摂取量は10~12グラム、目標は6グラム未満)というブラジルの原住民ヤノマモ族は、年をとっても血圧が上がらないことが知られている。

 横浜市立大学病院腎臓・高血圧内科教授の梅村敏医師は最近公表されたイギリスの事例を紹介する。

「イギリスは約10年間にわたる減量プログラムにより、国民の1日の塩分摂取量を1.4グラム減らすことに成功しました。その結果、上の血圧の平均が3mmHg下がり、脳卒中や心筋梗塞などによる死亡率も42%減りました。まさに塩分摂取量の減少が重大な役割を果たしたと考えていいでしょう」

 海外の話ばかりではない。福岡県久山町でも、1960年代から70年代にかけて脳卒中の発生率は半減した。その背景にあるのが、保健師による減塩と服薬指導だったという。

 しかし、実際に試みたことのある人ならおわかりだろうが、減塩は口で言うほど簡単なことではない。料理が物足りなく、おいしく感じないため、ついしょうゆや塩をかけてしまうという人も多いだろう。

「減塩に成功しないのは、それなりに理由がある」と、梅村医師は説明する。

「実は、塩分をおいしいと感じる脳の部位の遺伝子群は、麻薬中毒に関わる遺伝子群と類似しているという報告があるのです。多くの生物にとって、塩分に含まれるナトリウムは生命の維持に欠かせません。昔の人間は塩分摂取が容易ではなかったため、塩分を欲する遺伝子を持つ必要があった。皮肉なことに、それが塩分をいくらでもとれる現代人の高血圧の原因の一つと考えられます」

 自力で減塩を試みるのがたいへんであれば、専門家の助言に頼るしかない。

 例えば、坂東ハートクリニックは、管理栄養士が患者の背景などに合わせた減塩法をアドバイスし、効果を上げている。坂東正章医師は言う。

「管理栄養士は、患者さんの話を聞いただけで、一日にだいたいどのくらいの塩分をとっているかを推定し、どこに塩分摂取の問題が隠れているかを見つけ、助言することができます。それを繰り返すと、患者さんの塩分摂取量が減っていくのです」

 坂東医師によると、管理栄養士が個別に患者を指導できるような医療機関は、とくにクリニックでは多くないというが、薬に頼らない治療を目指すなら、そういう医療機関にかかりたい。

週刊朝日  2014年6月13日号