漫画「美味しんぼ」騒動や「吉田調書」の流出が発端となり、原発事故問題の深刻さが改めて浮き彫りとなっている昨今。作家の室井佑月氏は本誌の連載で、国が情報を開示しないことで「国民を洗脳している」と指摘する。

*  *  *

 先週のこの原稿にも書いたけれど、安倍総理は「美味しんぼ」騒動を踏まえて、「政府としては、根拠のない風評を払拭していくためにも、しっかりと正確な情報を分かりやすく提供していく」と発言した。

 本当にそうしてくれるんでしょうね? 望むところだ、と思っていた。

 しかし、5月23日付の「日刊ゲンダイ」に、

「安倍官邸が激怒! 福島原発『吉田調書』流出で“犯人捜し”」

 という記事が出ていた。

 安倍首相とその周辺の人達は、朝日新聞がスクープした「吉田調書」にカンカンだというのだ。

「吉田調書」とは、朝日新聞によれば、原発事故時の福島第一原子力発電所所長(当時の現場の最高責任者)の吉田昌郎氏が政府事故調査・検証委員会の調べに対して答えた「聴取結果書」である。今まで非公開にしてたらしい。

 A4判で四百数十ページというその調書は、全7編で構成されていて、内容がとてもハードだ。

 事故直後に所員の9割にあたる約650人が吉田所長の待機命令を無視して“逃亡”した。高濃度の放射性物質を放出するベントの準備を密かに進め、住民が大量被曝する恐れがあったこと……。

 国は福島原発事故の話題を、「風評被害」などという小賢しい言葉を使って、国民が忘れるようにし向けてる。そして実際、結構な数の人間が、国の思惑に踊らされている。

 でも、こんなもの(吉田調書)が出て来たら、少しずつ上手くいきつつある。国の国民への洗脳がぶちこわしだよな。だから、安倍サイドはカンカンなんだろう。

「官邸ではいま、『一体誰が朝日の記者に吉田調書を流したのか』と“犯人捜し”が始まっています。菅官房長官は『(調書は絶対に)公開しない』と憤然としている。とくに安倍周辺は、原発は過酷事故が起きれば、電力会社さえもコントロール不能に陥る――という解説部分が気に入らないらしい。原発再稼働に突き進む安倍政権にとって、少しでも反原発につながる動きは許せないのでしょう」

 これは記事の中で官邸事情通という人がいっていること。

 安倍さんが本気で、「(国民に)しっかりと正確な情報を分かりやすく提供していく」というなら、なにも問題ないじゃんね。事故後の福島第一原発でなにが起きていたか書かれている「吉田調書」を積極的に「しっかりと正確」に国民に公開してよ。

 そうそう記事には、

「『特定秘密保護法』が施行されていれば、『吉田調書』は確実に“闇”に葬られていた」「『吉田調書を入手した朝日の記者も、渡した役人も逮捕される事態になっていたでしょう』(司法ジャーナリスト)」

 だって。おお、怖い。

 安倍さんも、ここまで来てまだ嘘ばっかつくって、ある意味すごい。そして、それを信じる人がいるのもあたしにとっては衝撃的。

週刊朝日  2014年6月13日号

著者プロフィールを見る
室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

室井佑月の記事一覧はこちら