トマトの黄色い花やジャガイモの白い花が咲く。そんな心和む光景を都市部の駅ビルや商業施設の屋上で楽しむことができる。特別な知識はいらない、道具も貸してくれる。家族で買い物したついでに、会社帰りに、手軽に季節の野菜をつくり、食べる――そんな「都市型屋上菜園」にハマる人が増えているのだという。

 駅直結の商業施設、アトレ恵比寿の屋上庭園の一角にある「ソラドファーム恵比寿」はJR東日本が運営する。1区画3平方メートルと5平方メートルの菜園が計37区画。年間の利用料金は10万440~12万6360円で、苗や種、菜園道具などの貸し出し費用が含まれる。都心の駅ビル屋上という好立地から、つねに定員いっぱいだという。同社では恵比寿のほかにも八王子、荻窪などの駅ビルでも貸し菜園を運営している。

 ちなみに、ソラドファームという名前は「空」と「土」、そして、気軽に菜園を楽しんでもらいたいとの思いから「ソラドファ」の音階に重ねてつけたものだという。

 こうした都市型屋上菜園が注目されるようになったのはここ数年のことだ。

 もともとファミリー層にガーデニングは人気が高く、地方公共団体や農協などは遊休農地を有効活用する「市民農園」を開設してきた。農林水産省によるとその数は年々増え、いまでは全国に4092カ所ある(2012年度末)。年間の利用料金が1万円程度以下と安く、手軽に野菜などを栽培できることから人気が高まっているのだ。

 これに対して、都会の駅ビルやショッピングセンター、百貨店の屋上にある民間の菜園には大きく次の三つの特徴がある。

(1)都市部にあり、交通の便がいい(2)苗や種、鍬(くわ)などの用具を菜園側で用意している(3)専門のスタッフが日常的な水やりや土の管理を行い、野菜づくりの基本から教えてくれる――ことだ。

 農具の持ち方や使い方にはコツがいるが、都会に住む人は鍬など農具を手にする機会はほとんどない。畝(うね)のつくり方や種のまき方もよくわからない。収穫のタイミングなどを含め、野菜づくりの基本からスタッフが教えてくれるのはありがたい。

 また、野菜を育てるのは意外に手間がかかる。水やりのほか、土の管理、雑草とり、害虫対策など日常的な管理が不可欠だ。菜園では日々の管理は専門スタッフが行ってくれるので、週1回程度しか出かけられない人でも安心できる。

 前述したソラドファーム恵比寿には鍬やスコップ、じょうろ、小さな苗の支柱となる割りばし、はさみ、長靴、軍手など菜園に必要なさまざまな道具が用意され、わからないことがあればスタッフが教えてくれる。利用者はそれこそ買い物帰りに「手ぶら」で野菜づくりができるというわけだ。

週刊朝日  2014年6月6日号より抜粋