5月15日、安倍首相は記者会見で集団的自衛権行使への意欲を見せた。世間でも賛否が分かれるこの判断。ジャーナリストの田原総一朗氏は「衆院解散で国民に問うべし」と指摘する。

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「憲法の根幹 骨抜きに」

 5月16日の朝日新聞2面の大見出しである。そして社説では、「首相は集団的自衛権の行使容認を突破口に、やがては9条のしばりを全面的に取り払おうとしているように見える。これが『戦後レジームからの脱却』の本質であるならば、看過できない」と強調している。

 5月15日、安倍首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」が首相に報告書を提出したのを受けて、首相は「限定的」という前提つきで、この報告書を事実上認める記者会見を行った。朝日新聞の16日の記事は、それに対する反応である。

 毎日新聞は16日の社説で、朝日新聞よりも激しく、「根拠なき憲法の破壊だ」と断定した。

 東京新聞は1面に「『戦地に国民』へ道」という大見出しを掲げて徹底的に批判した。

 それに対して、読売新聞は社説で「日本存立へ行使『限定容認』せよ グレーゾーン事態法制も重要だ」と、強い是認の姿勢を示した。

 さらに産経新聞は、社説で「『異質の国』脱却の一歩だ 行使容認なくして国民守れぬ」とうたい、「安倍首相の記者会見を高く評価したい」と力説している。つまり朝日、毎日、東京と、読売、産経とが真っ向から対立しているわけだ。

 私は、首相の姿勢を大批判もできて、また大支持もできる現在の日本のあり方は、きわめて健全だと思う。そしてどちらの視点の記事も、それなりの説得力を持っている。

 率直に記せば、われら日本人の多くはこれまで、この国の安全保障について、それほど真剣に、それほど深くは考えてこなかったと思う。

 私はこれまで、BS朝日の番組「激論!クロスファイア」に、何度か自衛隊の元最高幹部クラスたちに出演してもらい、自衛隊がいかに戦えない存在かを、ぎりぎりまで語ってもらった。だが、彼らの苦悩や不満に対する反応は希薄だった。多くの視聴者が関心を持っていなかったのだ。

 あるいは、日米安全保障条約があるので、いざとなれば米軍が助けてくれると安心しているせいなのかもしれない。たとえば沖縄の米軍基地問題や尖閣諸島をめぐる日中の対立などを取り上げでも、視聴者の反応は芳しくなかった。はっきり言えば、視聴率が低かったのである。

 ところが、安倍首相が憲法の解釈を変更することで集団的自衛権を行使するという強い意欲を示した。そして、全新聞、テレビが連日のように、それも賛成、反対に分かれて大きく報じるために、誰もがいや応なく関心を持たざるをえなくなった。改めて日本の安全保障ということを考えざるをえなくなってきた。

 集団的自衛権の行使で、本当はどんなメリットがあるのか。あるいはどんなデメリットがあるのか。戦争が防げるのか、それとも逆に戦争に巻き込まれることになるのか。

 都合がよいことに、新聞によってメリット、デメリットをそれぞれ詳しく論じてくれている。集団的自衛権の行使によって日本が繁栄するという論と、破綻するという論が、それぞれ大まじめに論じられている。いまや、国民が日本の安全保障を考える大きなチャンスだといえる。

 国民に日本の安全保障を真剣に考えてもらう。そのために、安倍首相は思い切って衆議院を解散して、集団的自衛権の行使をテーマにして総選挙を行うべきである。

週刊朝日  2014年6月6日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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