テレビ番組がどれだけのユーザーに観られたかを判断する指標「視聴率」。放映されている間の数字だが、その評価基準は今やかなり細分化されているよう。そこからみえてくる「視聴率だけではわからないドラマの魅力」をドラマ評論家の成馬零一が解き明かす。

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 ドラマがスタートすると必ず注目される「視聴率」。ランキング好きの日本人は視聴率をレースに見立て、毎回楽しんでいます。

 ちなみに今期の第1話の平均視聴率ベスト3は『花咲舞が黙ってない』17.2%(関東地区、以下同)、『アリスの棘』14.2%、『ルーズヴェルト・ゲーム』14.1%。

 池井戸潤の小説『不祥事』をドラマ化した『花咲~』は、銀行の問題を調査する支店統括部臨店班に所属する花咲舞(杏)が主人公の物語。毎回、悪い支店長を懲らしめる展開は銀行版「水戸黄門」といった感じです。

 私たちは視聴率を知り、「『半沢直樹』の影響なのか、池井戸潤の原作は強いねぇ」とか、「主演が杏だからNHK朝ドラ効果だ!」とか、視聴率を肴に楽しめるわけです。

 もっとも第1話は多くの人がとりあえずチェックするので高視聴率ですが、第2話でガクンと下がり、第3話以降安定していくのが通常パターンなので、油断は禁物。しかし、まれに回を重ねるごとに上がっていく作品もあり、今期は『BORDER』が第1話9.7%だったのが、じわじわと数字を伸ばし、第5話は13.1%。今後どこまで数字を伸ばすのか要注目です。

 視聴率の本来の役割はテレビ番組に宣伝広告を出す企業のために「テレビ番組が毎分あたり、どれだけの人間に見られているか?」を表すもの。関東地区の場合、1%あたりの視聴者数は約18万世帯、約40万7千人と言われています。とはいえ、テレビの電源が入っていただけでもカウントされるため、信ぴょう性が疑われることの多い数字でもあります。

 しかし、視聴率を調べるビデオリサーチ社の最近の評価基準は細分化していて、昨年から「録画した番組を後で視聴したか」を表す「録画再生率」を、さらに今年6月から米ツイッター社と連携して、番組に対するネット上のつぶやきなどの反応を集計した「ツイッターTV指標」を導入します。つまり、「視聴率」「録画再生率」「ツイッターTV指標」という三つの基準があるわけです。

 視聴率が、リアルタイムで見ている人を示すのに対し、「録画再生率」は、作品を後でじっくり見たいという人を示す「ソフト消費」です。ここには録画された番組だけでなく、レンタルやオンデマンド配信、DVDの購入なども含まれます。代表作は刑事ドラマの『踊る大捜査線』や『SPEC』。どちらも放送当時の視聴率は必ずしも高くなかったのですが、マニアックなファンが熱狂し、放送終了後もレンタルやDVDの売り上げが好評で後に映画が制作されて大ヒットしました。

 最後に「ツイッターTV指標」ですが、ソーシャルメディアが普及したことで、ドラマを見ながら、ツイッターでつぶやく「コミュニケーション消費」が目に見えるようになりました。その影響が一番大きく出ているのが『ゲゲゲの女房』以降の朝ドラです。一方、SNSでの口コミが波及する形で『家政婦のミタ』や『半沢直樹』のように視聴率40%台をたたき出すメガヒット作も生まれています。

 こうした三つの評価基準を知っておくと、視聴率とはまた違った"ドラマの魅力"が見えてくるのではないかと思います。いずれにせよ、レースはまだ始まったばかりです。

週刊朝日  2014年5月30日号