飲食業界をはじめ、日本各所で人材不足が多くのメディアで報じられている。しかし作家の室井佑月氏は、「これってほんとう?」と疑問を投げかける。

*  *  *

 5月5日付の毎日新聞に、

「景気回復で人材奪い合い『時給1375円』も求人難」

 という記事が出ていた。

「人手不足が外食、小売り、運輸など幅広い業種に広がっている。働き手の減少という構造的な要因に加え、景気の回復基調でパート・アルバイトの奪い合いが起きているためだ。時給上昇だけでなく、賞与を支給したり、正社員化したりする動きも出てきた」

 時給を上げたのは牛丼の「すき家」の一部店舗。でもそこだけじゃなく、じわじわとそういう流れが来ているようなことが書かれていたぞ。人材派遣会社の方のコメント付きで。

 これってほんとう? 世の中のほんの一部の話じゃなくて? まずニュースありきで、世の中にそういうブームを作ろうとしているような……。

 だって、あたしはその10日前くらいに、NHKで「調査報告 女性たちの貧困~“新たな連鎖”の衝撃~」という番組を観たばかりだ。バイトを掛け持ちして朝から晩まで働いても、食べていくのがやっとの若い女性、母親と妹とネットカフェ暮らしをしている女性、番組は貧困に喘いでいる女性のルポルタージュで構成されていた。

 もうこの国では6人に1人の子供が貧困だ、なんて数字も出て来ているじゃん。
 
 10日で世の中に真逆の変化があったって? なんか首を傾げてしまう。

 そういえば、ゴールデンウイーク中は、新聞・テレビでさかんに、「増税1カ月、消費落ち込み想定内」というニュースが流れていたっけ。

 たとえば、5月2日付の日本経済新聞にはこんな記事が。

「4月1日の消費増税による個人消費の落ち込みが、企業が想定した範囲内にとどまるとの見方が増えている。増税直後に約2割落ち込んだ百貨店の売上高は約1割減まで復調。スーパーなど、毎日の生活に根ざした商品を扱う店舗では前年を上回り始めた企業もある。日本経済新聞社が実施した調査では、主要小売業の8割超が、6月ごろには売上高が回復するとみている」

 つまり、3%消費税を上げたけど、景気に冷え込みはないよ、といいたい。

 こういうアナウンスをしたところで、救われる人は出て来るのか。アゲアゲな記事を読んだところで、自分の財布の中身が膨らむわけもない。

 介護問題も、貧困問題も、自分でなんとかしろ、という世の中になりつつある。最近、ニュースであんまり取り上げられなくなったけど、この国の貧困者数はどうなったんですか? 我々を油断させてどうしようというのじゃ。

 ま、政府は2015年に消費税をさらに2%、10%に上げたいわけだから、今回の3%引き上げで不味いことはあんまりいいたくないわな。

 それにしても、ニュースってじっくり読めば、確実に誰の味方で書かれているかわかるよね。誰の味方かで中身も変わるよね。

週刊朝日  2014年5月30日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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