以前から日本男児のロリコン化に危機感を覚えている文筆家の北原みのり氏だが、その根本的な原因に男性の幼稚化があると言う。

*  *  *

 満員電車で。隣の男二人が真剣な顔でしゃべってた。ヒゲが似合う20代のオシャレ男子が口火を切った。

「あのさ、ほんとにスッゲーことって、言葉にならないらしいぜ……」

 帽子が似合う、もう一人の男子がハッとする。

「そうかも!」

 ヒゲが言う。

「でも……ほんとにスッゲーことって、なんだろう」

 帽子が考える。

「なんだろう……」

 するとヒゲが、あ! 思いついたっ! という調子で声をあげた。

「ロボットレストラン!」

 帽子が大きく領く。

「そうだ! だって行ったヤツ、みんなスッゲーって言ってるし」「それって、ホントにスッゲーってことだよね」「ロボットレストラン、スッゲー」「スッゲー」「言葉になんねぇ」

 しばし車内が静寂に包まれたような気がしたが、二人はますます盛り上がっていく。今度は帽子が、「あっ!」と、声をあげた。

「シルク・ドゥ・ソレイユ、すごくね?」

 ヒゲが首をぶんぶん振る。

「確かに、言葉にならねぇ」「スッゲーよ」「人間って、スッゲーよ」「言葉に、できねぇ……」「すっげーよな……」「すっげー」

 ちなみにロボットレストランとは、新宿にあるロボットや女性ダンサーのショーを見られるレストラン。シルク・ドゥ・ソレイユはご存知のように芸術性の高いサーカス(という言い方で良いのか)です。

 これは……社会問題ではなかろうか! と私は心で爆笑しつつ確信しました。若者の感動の閾値、下がってます! 少子化以前に、若者が子供か! してます。

 本稿では、たびたび、日本の男のロリコンが過ぎると嘆いてきました。でもそれは、男が永遠に赤ちゃんでいられるための、装置なのかもしれない。大人になることを拒絶してたのは、男自身なのかもしれない。

 ええ、私、ロボットレストラン、行ったことないですよ。シルク・ドゥ・ソレイユも未体験。でも言いたい。ヒゲと帽子よ、若者よ! 若さ故でなく、幼さ故で中年女を驚かせないでほしい。大人になってほしい。大人になったら、もっとスッゲーこと、絶対にあるから!

※週刊朝日 2014年5月23日号

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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