「こまつ座第104回公演『てんぷくトリオのコント』」に出演する、坪倉由幸、杉山裕之、谷田部俊の3人が組むお笑いトリオ・我が家。伝説のコントを復活させることに、彼らは大きなプレッシャーを感じているという。

 1977年生まれの3人が、この世に生を受ける前のことだ。三波伸介さん(82年没)、伊東四朗さん、戸塚睦夫さん(73年没)の3人からなる“てんぷくトリオ” は、テレビの演芸ブームの中心的な存在を担っていた。専属でコントの台本を書いていたのは、井上ひさしさんである。あれから40年以上の歳月が流れたが、その当時のコントを、てんぷくトリオと同じ3人組の我が家が、舞台上で再現することになった。

「先日、柳生博さんにお会いしたときに、舞台の話をしたら、『覚悟して臨まないとダメだぞ。それで三波伸介さんの役は誰がやるんだ?』って、真顔で詰め寄られました。いつもは温厚な柳生さんが、かなり厳しい表情をなさっていたので、あらためて、『これは心してかからねば』と思いました。でも、どうせやるからには、『てんぷくトリオよりも面白い』って言われたいです。畏れ多いことですけど(苦笑)」

 と、坪倉さんが神妙な顔つきで話すと、杉山さんが、「でも、これでしくじったら仕事がなくなるかもしれないし、お客さんの前に立つのは最後になる可能性もある。そのくらいの覚悟でやりますよ」と続けた。すると、「実際に、コントで転覆してしまうかもしれない。何十年か後に、“てんぷくトリオのコントで、実際に転覆しちゃったトリオがいてね”なんて語り継がれないようにしないと」と坪倉さんが暴走し、杉山さんが、「お後がよろしいようで……、って全然よろしくないでしょ!」と突っ込んだ。インタビューの受け答えさえもコントのようだ。

 当時の映像はほとんど残っておらず、残っているすべての台本に目を通し、3人で読み合わせもした。「僕は戸塚さんの台詞がハマる」と自信満々な谷田部さんは、当時のコントに比べて、自分たちのコントは、もしかしたら自主規制しすぎているのでは、と感じたという。

「自分たちでネタづくりをしていると、つい『今のは放送コードに引っかかるからやめよう』みたいな話をしがちなんですけど、井上ひさしさんの台本は、人が不幸になったり、突然死んでしまったり、結構ブラックで(笑)。今回の舞台は、お笑い界全体が、自由なものづくりをしていくための起爆剤になったりするんじゃないかなって。そのくらいのパワーを持っている台本だと思います」

「てんぷくトリオと我が家に共通点があるとすれば?」との問いに、坪倉さんは、「対立の構図があるところに、もう一人が入ってくるというスタイルですかね」と分析した。

「今回の舞台の資料に、黒澤明さんの『私はどんな短いカットの中にも対立を持ち込む』という話に共感している井上ひさしさんの文章が載っていたんです。『対立のあるところにドラマがある』って。で、そうか、無意識のうちに僕らも黒澤イズムを継承しているんだな、と(笑)」

週刊朝日  2014年5月23日号