元西武ライオンズ監督の東尾修氏は、今季の西武の不振を嘆く一方、ある球団に大きな期待を寄せているという。

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 プロ野球が開幕して1カ月がたった。30試合を超えたところで、首位と最下位が10ゲーム開くなんて、ちょっとさみしいよ。OBとして特に西武の不振は悔しい。西武ドームで大きく負け越しては、ファンは離れるよ。外国人選手も何人獲得したかな。ほとんど戦力になっていない。FAで片岡が巨人に移籍したのだから、補強方針をはっきりさせて狙いをもって真剣に使える選手を獲得しないと。まだ時間はある。フロント、編成部門も含め、いま一度立て直し策を練ってもらわないとズルズルいってしまうよ。

 そんな中、セ・リーグで広島が本当にいい戦いをしている。以前はキャンプで地獄のような練習をして、開幕当初はいいけど、疲れが出始める5月に失速した。「鯉のぼりの季節まで」なんて広島にとって不名誉なことも言われたけど、年間通じて巨人と渡り合う力は備わっていると感じる。

 何より野村謙二郎監督と選手の距離感がいい。就任5年目で、監督は選手の性格まで掌握し、選手は言われなくても監督の考えが実践できる状況だ。投手でいえば、勝負どころでの失投が少ない。チーム防御率が3点台前半と安定しているから、打線も次の1点を取ることに集中できる。終盤まで粘り強く戦えるのは、投打の相乗効果でもある。

 昨年2月。WBCの合宿を前に、侍ジャパンの山本浩二監督と投手総合コーチの私で、謙二郎と食事をした。その時にマエケン(前田健太投手)が右肩に不安があると聞いた。でも、謙二郎の言った言葉が忘れられない。「連れていって、思い切って使ってください」。チームのエースだよ。WBC合宿に入って、最初にキャッチボールを見た時、浩二さんと「これは難しいな」と話した。それでもマエケンは「絶対に間に合わせます」と話して、その通りの活躍を見せてくれた。

 マエケンにしたって、将来のメジャー移籍を考えているなら、大けがにつながる前に辞退の判断をしてもおかしくなかった。謙二郎の師である浩二さんが代表監督だからという理由だけではない。監督と選手の信頼関係があるからこそ、言えるセリフだ。

 そして丸、菊池、堂林の若手を中心にベテランも脇を固める。

 私が西武の監督を務めた最初の2年、95、96年はいずれも3位。96年オフにキヨ(清原和博)が巨人にFA移籍した。戦力的には4 番打者の離脱は痛かった。でも、思わぬ相乗効果もあった。若手がミスを恐れず、のびのびとプレーしだしたんだ。97年はリーグ優勝。ベテランの存在は精神面も含めて大きいけど、偉大すぎると、若手は萎縮することもある。その点、広島は若手、中堅、ベテランの役割が絶妙だな。

 エルドレッド、キラ、先発のバリントンに、守護神ミコライオ。外国人がみんな活躍している。それも謙二郎の米大リーグヘのコーチ留学経験が大きい。昨年12月、名球会の日程を終えると、謙二郎はラスベガスに行って、米国の担当スカウトと意見交換したみたいだ。どんな選手が活躍できるか、どんな選手がほしいか、意思疎通もできている。FAで大竹が抜けても、その穴を感じるどころか埋めきっている。西武も見習ってほしいよな。カープは91年を最後にリーグ優勝から遠ざかっているが、今年は巨人を負かして……という形が実現するかもしれない。

週刊朝日  2014年5月23日号より抜粋

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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