財政制度等審議会の試算によると今後、危機的状況に陥る可能性のある日本の財政。モルガン銀行東京支店長などを務めた藤巻健史氏は、「究極の財政再建策はハイパーインフレだ」と持論を展開する。

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 私の秘書をしている長男ケンタが、「銀行に行って、円の定期預金をしてきたよ」と連休前に報告をしてきた。ドル建てのMMF(マネー・マネジメント・ファンド、公社債投信の一種)購入ではなく、円の定期預金なのだ。「財政は危ない。インフレになる。現金預金は価値がなくなる。円は暴落する」という我が主張を、身近にいて耳にタコができるほど聞いているケンタが、である。「おこぼしをしてはネクタイにシミをつけているような父親」を身近に見ていると、信用が置けなくなるらしい。自分のお金だから自分で運用先を決めるのは当たり前とはいえ、息子も説得できないとは、あら情けなや。

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 4月28日、財務相の諮問機関である財政制度等審議会が「日本の財政はこのままでは危機的な状況に陥りかねない」という、極めて厳しい将来の姿を示した。政府関係機関がここまで強い調子で事態を認めざるを得なかったのだ。ショッキングなニュースである。NHKは大きく扱ったが、どの新聞も小さくしか扱わなかった。「見たくないものは見ないのか?」と疑ってしまったほどだ。

 財政制度等審議会の試算の前提は、政府関係機関のせいか極めて楽観的なものだった。まず経済成長率は名目で3%程度が続くとしている。過去の数字と比べるとあまりに高い成長率だ。

 プライマリーバランス(基礎的財政収支、PB)とは、国債費(国債の元本償還と金利支払い)を除いた収支のこと。

 2020年度の黒字化は国際的な公約だ。しかし、政府自身は「まだ道が見えていない」と明言している。

 それでも、財政制度等審議会の報告では、「達成済み」を前提としている。

 それらの甘い前提の上でも、財務省は46年後の60年度の「国と地方を合わせた債務残高」を8157兆円とみている。今年度の見通しは1196兆円だそうだから、なんと6倍余りに膨らむという試算なのだ。

 PBの黒字化がたとえ達成されても、国債費は毎年増えるため累積赤字は増え続け、極大化してしまうのはこの報告書から明白だ。

 累積赤字すなわち借金総額が大きくなると金利が上昇したときに大変なことになる。支払金利の重みで財政が破綻してしまうのだ。借金総額が大きくても破綻しないのは、今のようなゼロ金利時代だけである。

 この事態に対し、財政制度等審議会は「借金を減らすためには7年後の21年度に約57兆円が必要だとも試算しており、消費税増税だけに頼れば、消費税率を30%近くまで引き上げなければならない」と報告している。30%近く!だ。

 日本のしがらみ政治、政治のリーダーシップのなさを考えると、まちがいなく不可能だろう。

 となると解決策はただ一つ。インフレにして60年度の債務残高8157兆円を実質意味のないものにする方法である。(理解しやすくするために過激な例で申し訳ないが)タクシー初乗り2キロ1兆円時代には8157兆円は国の借金としては超小規模となる。ハイパーインフレは国民生活の犠牲でなり立つ究極の財政再建策なのだ。「異次元の量的緩和」を推し進めるアベノミクスのゴールはそこにあると私は思う。

週刊朝日  2014年5月23日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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