本誌1997年1月3日・10日号で対談した時の渡辺さん(左)と林さん
本誌1997年1月3日・10日号で対談した時の渡辺さん(左)と林さん

 男と女の奥深い情念と人間の本性を探求した人気作家、渡辺淳一さんが4月30 日、前立腺がんのため亡くなった。享年80。「別れぬ理由」「遠き落日」など原作映画で主演を務めた俳優の三田佳子さん(72)が、在りし日の渡辺さんを偲んだ。

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 40年来のお付き合いで、映画2本と舞台2本でご一緒させていただきました。いずれも壮大なスケールの作品で、いくつも賞をいただいたことが、深く思い出に残っています。

 先生は柔和な笑顔で優しくお話しされる印象がありますが、作品は大作ばかり。普段のおおらかな雰囲気と作品とのギャップも魅力の一つでした。食事に連れていっていただくと、先生のエッセーのようにおもしろい話をポンポンされる。感心していると、最後の味付けはいつも男女の話(笑)。

 なかでも鮮明に覚えているのが、私が家庭のことで大変だった時期に銀座で食事をご一緒させていただいたときのこと。先生が、

「フランスのミッテラン元大統領はね、女性問題で記者から批判されても、『エ・アロール』(それが何か)って言ったんだ。外国では男女の話と仕事は、切り離しているんだよ」

 うなずいて聞いていると、席にあったコースターに「エ・アロール」と書いて、「三田さんもね、気にしないって精神でやっていかないとダメだよ」とコースターをくださった。先生はいつもそんな感じで、柔らかいお話から、琴線に触れるような人生のヒントをくださるんです。

 最後にお会いしたのは昨年。先生の「80歳のお祝いの会」にお誘いくださいました。着物を着ていくと、「来てくれたんだ。ありがとう、ありがとう」と、すごく喜んでくださって。うれしかったですね。

 先生はいつもすてきなお着物をお召しになっておしゃれでしたが、ビジュアルだけではないんです。壇上で皆さんとお写真を撮っていると、先生がきれいな女医さんを呼んで、

「私の専属の先生です。彼女に診てもらっているんだ。きれいでしょ?」

 って、披露する。今思えば病気で苦しい状況だったはずなのに……。その心がスマートでした。

 最後まで男と女の色気を失わない。渡辺淳一といえばこれ、という姿勢を貫いていました。生き方そのものがダンディーでした。

 80歳で早すぎるとは思いますが、先生の小説のように上手に去っていったので、実感としてまだ受け止められていません。

週刊朝日  2014年5月23日号より