過去最悪の倒産件数は、円高不況が襲った84年の約2万社。ところが、その数倍となる企業が今、瀕死の状態だという。そうした企業が力尽き少しずつ倒産している。

 これからどうなるのか。トドメを刺しそうなのが、消費増税だ。4月に8%に引き上げられ、来年10月には10%になる予定だ。

 問題となるのは「価格転嫁」である。

「例えば、立場の強い元請け企業が、下請けや孫請けの零細企業に取引先の変更をチラつかせ、消費税の上乗せを断るケースも出てきていると聞きます」(証券会社のエコノミスト)

 さらなる重い負担を強いられかねないというのだ。こうした事態を避けるため、政府は、小売業界を中心に価格転嫁を促す「転嫁Gメン(転嫁対策調査官)」なる調査官を派遣している。

「転嫁Gメン」は何をやっているのか。実際のGメンに直撃した。

「現在は企業や町の商店を訪問したり、電話でヒアリングをしたりして、もし価格転嫁していない事実があれば立ち入り調査もおこなっています」

 と話すのは、山本裕さん(61)だ。情報サービス会社や旧社会保険庁を経て、昨年10月からGメンを務めているという。経済産業省のホームページで人材募集を見たのがきっかけだそうだ。山本さんのようなGメンは全国に約600人おり、ほとんどが民間企業で定年を迎えた人だ。元経理マンや営業マンが多い。

「大手企業が中小零細企業に対して『買いたたき』をしていないか監視をしています。値札の付け替えの相談などにも乗っていますよ」

 スーパーなどの小売業者が増税前の価格に据え置けば、納入する業者にしわ寄せがくる。不当に安い値段で商品の納入を迫られる可能性があるからだ。

 実際のGメンの仕事は厳しいという。

「移動は電車やバスです。多い日は歩数計で2万歩以上歩く日もあります。高齢の体にはこたえますよ」

 とはいえ、効果は少しずつ出始めているという。

 先月のこと。JR東日本の子会社にはじめての是正勧告を出したのだ。もし、勧告を無視したり、立ち入り検査を拒否したりすると、50万円以下の罰金が科せられることもあるという。

「引き続き、目を光らせて、事前に芽を摘んでいきたいと考えています」

週刊朝日  2014年5月9・16日号より抜粋