畠中恵さん(撮影/写真部・植田真紗美)
畠中恵さん(撮影/写真部・植田真紗美)

 明治のモダンが漂う東京・銀座を舞台に、次々と起きる“謎”を交番の巡査らが解決する――。週刊朝日に次号から始まる新連載「明治・妖キタン」は摩訶不思議な時代ファンタジー小説だ。作者の畠中恵さんに意気込みを聞いた。

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 妖とは妖怪のこと。畠中さんは、江戸の大店の病弱な若旦那と個性あふれる妖たちが次々と事件を解決する、累計600万部の人気小説「しゃばけ」シリーズ(新潮社)も手がける。もしや、妖怪マニアですか?

「いえいえ(笑)。高校生のころから都筑道夫さんの時代小説シリーズ『なめくじ長屋捕物さわぎ』が大好きで、この作品のように仲間が出てくる時代ものを書いてみたいと思ったんです。でも人間の仲間にすると、都筑先生の作品が好きすぎて作風が似てしまうんじゃないかという危惧があり、それなら『人じゃない何か』を仲間にしちゃおう、と。それで、江戸の人々の生活に根付いていた妖を登場させることにしました」

 改めて江戸時代の書物で妖怪を調べると、その豊かなバラエティーに驚かされたという。

「鎌鼬(かまいたち)のように人々が恐れていた妖もいれば、ただ声を返すだけの山彦、家や家具を揺らしてカタカタ音を鳴らすだけの鳴家(やなり)、豆腐を持ってるだけの豆腐小僧など、全然怖くないし、何のためにいるの?っていうほどユルい妖怪も多いんです(笑)。八百万いる神様も、救ってくれるだけでなく、下手すると崇るように、妖怪も良いも悪いも両方いる。それが西洋と違い、日本っぽくておもしろいなぁと思いました」

 新連載は、昨秋出版された単行本『明治・妖モダン』(朝日新聞出版)の続編という位置づけだ。

「新しい作品を手がけるときには、自分の中でも新しい挑戦をするようにしています。『明治・妖モダン』にも妖が出てきますが、『しゃばけ』のように楽しくて愉快な妖モノではなく、読み手が何かひんやりしたものを感じるような作品を、と考えました」

 今回の物語の舞台は、明治21年の銀座。明治維新によって社会は激変し、新しい文化と古い文化、洋の西と東が混沌と共存している。例えば英国のリージェント・ストリートを模したといわれる銀座煉瓦街にアーク灯が並び、鉄道馬車が行き交う。

 ところが一本裏道に入ると、長屋が続き、井戸や土蔵が点在する。橋を一本越えれば江戸時代の街並みがそのまま残り、さらにまた橋を越えると明治政府が管轄する広い土地が現れて実際に明治時代の資料や古地図に残る風景を、畠中さんは作中で忠実に描いていく。ちなみに、このころの銀座を調べるために江戸東京博物館へ当時を再現したミニチュア展示を見に行ったところ、街並みのド真ん中にオンボロの掘っ立て小屋が立っていたそうだ。

「周りはレンガ造りで立派で華やかなのに、貧相な建物がポチョッとあり、なんだコレ?って(笑)。それは交番で、絶対にここを描こうと思い、その結果、交番の巡査がキャラクターとして生まれました」

 今回の連載で畠中さんが挑んだ新たな試みは、テーマに「廃仏毀釈」を据えたこと。神仏分離と神道国教化政策のもとで進められた仏教排斥運動だ。

「てっきり明治になってから政府が推し進めたものだと思っていたら、実は江戸時代から始まっていたようです。とても意外だったので、読者の皆さんも知らないのでは? 史実や風景を軸に、妖をからめた話にしていこうと画策しています」

 時代小説好き、歴史好き、古地図好き、はたまた妖怪マニアまでをも魅了する“摩訶不思議ミステリー”に、乞うご期待!

週刊朝日  2014年5月9・16日号