諸外国に比べ、犯罪も少なく平和な国というイメージのある日本。しかし、日本の女性は日々、怯えて暮らしていると文筆家の北原みのり氏は指摘する。その対象とはいったい何なのか。

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 海外に住んでいる友人が、久しぶりに帰国して驚いたことがあるという。「日本の女って、こんなにもつらそうだったっけ?」と。街を歩く女たちが怯えているように見えるのだという。

「まるで、DVを受け続けた女性みたいに見えるの」

 殴られるだけが暴力ではない。無視され、ばかにされるという暴力が日常になったDV被害者は、日々自尊心を損ねていく。他人の顔色を窺(うかが)い、諦めを深める。そんな絶望を街歩く女たちに感じたという彼女の話に、思い出したことがある。

 よく行くコンビニに、サービスが凄い女性店員がいる。「いらっしゃいませ!」の声が誰よりも大きく、何も買わない客にも「またお待ちしてまーすっ!」と声をかける。お釣りを渡す時は、たとえ1円玉1枚でも、手を添えてくる。また近所のファミレスの女性店員も凄い。深夜に行くと、スーツ姿の男性に(のみ!)「お仕事帰りですか? お疲れ様です」と声をかけ、食後には、「お口にあいました?」と微笑むのだ。

 過剰なサービスを振りまき、極度な緊張状態で働いているように見える女性たちが、最近よく目に入る。どういうわけか、私は彼女たちのことが気になって仕方なかったのだけれど、「日本の女がつらそう」という友の言葉と、彼女たちの顔が結びついた。

 コンビニやファミレスのパートで、そこまで頑張る必要ないじゃん~! と言いたいのではない。彼女たちの異常とも言える緊張状態からは、高いプロ意識で仕事をしているというより、「絶対に落ち度を見せない」という強迫観念や、リラックスする方法をとっくの昔に忘れてしまったような肩の力が見え隠れする。その「つらさ」は、彼女たち独特のものというより、社会全体を覆う重たい空気そのものなんじゃないか、と思えてならないのだ。

 いったいなぜ、生きること、仕事することに、こんなにも緊張と用心深さが求められるのだろう。

 友は、日本の女が怯えているように“見える”と言ったが、多分、本当に私たちは怯えている、のだと思う。失敗することに、怒られることに、これ以上、自尊心が傷つくことに。

週刊朝日  2014年5月9・16日号

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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