消費税も8%に上がり、日本国民の財布のひもは、ますます固くなっている。そんななかで安倍晋三首相が披露した俳句を見て、作家の室井佑月氏は全身の力が抜けたという。

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「給料の 上がりし春は 八重桜」

 この俳句、どうよ? 安倍さんが12日、彼主催の「桜を見る会」で自分で作って披露した俳句だ。

 あたしは新聞でこの記事を見つけたとき、全身の力が抜けた。てことは、一瞬「?」と思うけど、じつは非常に破壊力のあるすっごい俳句なのだろうか。俳句素人のあたしにはわからない深い意味でも入っていたり。覚えたくないけど、すぐ覚えてしまうよ。

 あたしは友達の歌人・枡野浩一さんに電話をかけた。この俳句、どうよ?と。枡ちゃんは、電話口で一瞬黙った。そして、いった。

「……室井さんが作ったの?」
「いや、あたしじゃない安倍総理」
「ふうん」
「で、どうよ?」
「俳句や短歌は、誰が作ったかが込みで評価されるものなんだよ。読み人知らずってあるけど、あれはわざとそうやっているわけだし、そのことに意味が……」

 桝ちゃんの話を聞きながら、あたしは考えていた。「給料の……」俳句になぜ破壊力があるのか。それは安倍さんが作ったものだからだ。

 13日付の産経新聞には、「今年の春闘で、大手企業のベースアップ(ベア)が相次いだことを念頭に、政府の賃上げ要請の成果に自信を示した」と書かれてあった。

 とすれば、首相のまわりに生えている桜の木と、あたしたちのまわりに生えている桜の木は、おなじであっても見え方が違う。でも、首相という立場の人間であれば、物価も消費税も上がり、財布の中の千円札を散りゆく桜の花びらに見立てている人たちのことも把握していないといけない。

 この句に破壊級の何かを感じるのは、一国の首相、全体を把握していなきゃならない方が(しかも、生活が大変な方が多数だ)、かなり管見であるということだ。

 安倍さんのお花見の前、8日発売の「女性自身」にはこんな記事が載っていた。「4月1日を境に“アベノミクス餓死”がますます増える!!」という見出しで。

「アベノミクスによる好況が伝えられているが、日本人の『餓死』は特殊なことではなくなりつつある。2011年の国内の餓死者は栄養失調と食糧の不足を合わせて1746人。およそ5時間に1人が餓死しているという状態だ」

 餓死の問題は、以前は路上生活者によるものだったが、近年では一般家庭や若者にも広がっているらしい。

 安倍さんの俳句から、自分が小学生のとき作った俳句を思い出した。京都にて作った俳句だ。

「八つ橋と 柴漬け食べて お茶飲んで」

「京都まで連れて来てやって、そうじゃないだろ」と先生に怒られた。ほんとうにおまえは馬鹿だな、と。

 安倍さんには「首相なのに、そうじゃないだろ」、そういって怒ってくれる人はいないのか。その後の言葉も……。一国のトップがあの俳句ってさ。

週刊朝日  2014年5月2日号