昨年4月の教育再生実行会議 (c)朝日新聞社 @@写禁
昨年4月の教育再生実行会議 (c)朝日新聞社 @@写禁

「日本に生まれたことに、誇りを持てる教育にしたい」。昨年1月、安倍晋三首相の大号令とともにスタートした「教育改革」。アベノミクスならぬアベデュケーションだというが、その前のめりの姿勢が教育現場を悩ませている。

「安倍さんが新たな教育改革案を打ち出すたびに、学校現場が変わってしまうのではないかと心配になります……」

 入学式、始業式を終え、生徒たちで活気づく横浜の市立中学校。社会科を教えるA教諭は、急ピッチで進む安倍流教育改革に不安げだ。というのも、横浜ではすでに安倍政権の教育改革に先んじた動きが出ているからだ。

 同市内の中学校では2012年春から、歴史と公民の授業で「新しい歴史教科書をつくる会」系の育鵬社の教科書を使っている。国旗や国家、日本の伝統文化に関する記述が多いのが特徴だ。

 育鵬社の教科書は、中田宏前横浜市長が任命した教育委員の賛成で採択が決まった。首長の思いが反映される「新教育委員会制度案」を先取りした動きだ。

「教科書の内容が薄くなり、記述もどんどん変わってきています。国の都合で教師や子どもたちの頭の中を変えてしまうのではないか」

 歴史教科書を開くと、大東亜戦争や大東亜共同宣言などの用語、記述が目につく。日本国憲法はGHQ (連合国軍総司令部)の押しつけ憲法との位置づけで一貫。「憲法は変えたほうがいい」。そんな気持ちにさせてしまうような書きぶりだ。他社の歴史教科書の内容とは明らかに違う。

 日本の神話や東京裁判、昭和天皇の生涯などに1~2ページを割いて詳しく紹介している。ご丁寧なことに、06年の安倍内閣の教育基本法改正を取り上げて、「伝統と文化を尊重し、わが国と郷土を愛する」などの教育目標にまで触れている。

 執筆したのは、安倍首相に近く、教育再生実行会議の委員でもある麗澤大教授の八木秀次氏(52)ら。

「教科書には日本、日本という思いが前面に出ています。生徒の中には在日の中国人、韓国・朝鮮人のお子さんもいるのですが」(前出のA教諭)

 学校現場は団塊世代の大量退職で、20代や30代の若手教諭が増える傾向にあるという。授業の準備や事務作業に追われる教諭が多い中、次々と打ち出される改革メニュー。埼玉県の公立学校の山本純人教諭(36)はこう心配を口にする。

「学習の遅れがちな生徒が目立っていたり、生活指導に追われたりする学校では、教諭は手いっぱいです。負担を減らすことも考えた改革であってほしい」

週刊朝日  2014年4月25日号より抜粋