田原総一朗「賢くならねば、日本は必ず孤立する」 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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田原総一朗「賢くならねば、日本は必ず孤立する」

連載「ギロン堂」

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 昨年末、安倍首相が靖国神社を参拝した。その後、中国と韓国が急速に関係を深めている。ジャーナリストの田原総一朗氏は歴史を鑑み、「今こそ、賢くなるべき」と訴える。

*  *  *
 戦時中に日本による強制連行の被害を受けたとして、中国の河北省に住む元労働者や遺族たち149人が4月2日、三菱マテリアルを相手どって、謝罪や賠償を求める訴訟を河北省高級人民法院に起こした。

 実は、これに先立つ3月18日、北京市第1中級人民法院に、戦争中に日本企業に強制連行された元労働者や遺族たち40人が損害賠償の訴えを起こす動きがあった。

 中国の裁判所はそれまで、同様の訴えを4回受けてきたが、いずれも却下してきた。1972年に田中角栄首相(当時)が訪中して周恩来首相との間で合意した日中共同声明の中に、次のような一文がある。「中華人民共和国政府は、中日両国国民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する」。これによって、戦争中の強制連行をめぐって中国の元労働者たちが裁判に訴えても、中国の裁判所はいずれも受理できないとしてきたのである。ところが3月18日、中国の裁判所は一転して、訴えを受理した。4月2日の149人の訴えは、この一件を受けてのものだ。

 こうした動きは、これまで中国では見られなかった。韓国では昨年、戦時中に強制徴用された元徴用工が起こした裁判で、ソウル高裁が新日鉄住金に3500万円の損害賠償を認める判決を下している。今回は、中国が韓国に歩調を合わせたかのようだ。3月28日には、習近平国家主席が訪問先のドイツで、日本が戦時中、南京で30万人以上を大虐殺したと発言した。こんなことは、江沢民や胡錦濤などの歴代トップもしてこなかった。

 これまでは、従軍慰安婦など戦時中のさまざまな問題について、韓国のほうが日本に激しく詰め寄ってきたが、中国はそれほどではなかった。その中国が、韓国に歩調を合わせるように、「対日闘争」ということで足並みをそろえ始めたのだ。

 いったい何故なのか。どうも、昨年12月26日に、安倍首相が靖国参拝したことがきっかけのようだ。中国の信頼できる筋からの情報によれば、実は昨年の暮れ、両国間で、日中首脳会談を行おうという話があったという。年明けに賀詞の交換をして、秋には首脳会談を行う話ができていたらしい。それを安倍首相の靖国参拝が裏切ったと、習近平国家主席が強く憤ったというのだ。

 韓国が中国にすり寄るのはわかる。中国は大国だし、経済的にも豊かになった。だが、中国が韓国にすり寄ることは、これまでなかった。尖閣諸島の問題が持ち上がったときでもそうだったのに、どうも、今回は違うようだ。中韓は日本を孤立させようと、米国をも抱き込もうとしている。安倍首相の靖国参拝に対しては、米国も「失望」を表明。下手をすると、中米韓が日本の孤立を図ってくるという懸念があった。

 こうした動きに対し、日本はあまりにも外交宣伝戦が下手だ。国内では今、日本が強くならなければいけないという論調が高まっているように思う。しかし、いま必要なのは強くなることではなく、賢くなることではないか。「ここはアメリカとの関係を大事にすべきだ」などと言うと「アメリカの手下だ」と批判されるのだが、やはり、孤立は一番怖いものだ。国際的に孤立してしまったことで、太平洋戦争が始まってしまった過去を忘れてはならない。日本はここで、懸命に賢くならないといけないのである。

週刊朝日  2014年4月18日号


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田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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