日野原重明さん (c)朝日新聞社 @@写禁
日野原重明さん (c)朝日新聞社 @@写禁

 聖路加国際病院理事長の日野原重明さん(102)が、絵本『だいすきなおばあちゃん』を発表した。朝日新聞土曜beで連載中のコラム「あるがまゝ行く」紙上で、2年前に「童話作家になる」と宣言。100歳の夢を実現させた情熱の源は何なのか、日野原さん自身が語った。

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 僕が書いた童話『だいすきなおばあちゃん』には、「子どもと死」「自宅でできる看取り」という二つのテーマを込めています。主人公の少女マリちゃんには、一緒に暮らす大好きなおばあちゃんがいて、おはしの持ち方やあやとりなど、毎日いろんなことを教えてもらっていましたが、やがておばあちゃんとのお別れのときを迎えます。マリちゃんは、自宅で家族と一緒におばあちゃんを看取り、その死を通じていろいろなことを学びます。実はこの童話は、僕が実際に体験したことをもとに書いた作品なんです。

 まだ10代のころ、神戸で一緒に暮らしていた祖母を家族で看取ったときのことを、90年近くたった今でも僕は鮮明に覚えています。

 臨終の床で祖母は、最期にゴロゴロとのどをならして息を止めてしまったのです。祖母の死に顔に笑いじわが刻まれていたのが忘れられません。とても幸せそうな最期の顔でした。

 この祖母の死は、僕が命について考えるきっかけになったできごとの一つでした。命がなくなるというのがどういうことなのか、残された人の心に思い出が生き続ける限り人は死なないのではなど、子どもながらにいろいろな思いを抱きました。後年、医者を目指したことにも大きな影響を与えたできごとであります。

 核家族化が進み、病院で人が死ぬことが当たり前になった現代では、僕が体験したような身近な人の死に子どもたちが向き合う機会はめったにないでしょう。

 この絵本を通じて、子どもたちが死について考えるきっかけをつくってもらえればと心から願っています。同時に親子だけの関係で完結しがちな現代の家族関係の中で、絵本に出てきたおばあちゃんのような祖父母の存在の大切さを見直してもらいたいという思いもあります。そんな親へのメッセージも込めたつもりです。

 読者のみなさんにお願いしたいのは、もし家族のどなたかが死に直面したとき、子どもたちを死から遠ざけるのはやめてほしいのです。おじいちゃんやおばあちゃんとのお別れのときが近づいたならば、最期までそのお世話に子どもたちを参加させてください。愛する人の死に触れたとき、子どもたちは自分が家族の一員であることや人の死というもののなりゆきについて学ぶはずです。

週刊朝日  2014年4月11日号