クリミア半島の編入以来、米露関係は緊迫しているが、日本はどう立ち回るのか。世界の主要国がそれぞれの思惑で動く今の状況で、日本に求められているものとは? ジャーナリストの田原総一朗氏の持論はこうだ。

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 オランダのハーグで3月25日に、日・米・韓首脳会談が行われ、オバマ大統領が間に入ることで、安倍晋三首相は初めて朴槿恵大統領と会談した。時間は約45分間で、北朝鮮の核・ミサイル開発問題などに対して3国が連携を強化していくことなどが話し合われた。

 オバマ大統領は「日・韓は米国にとって世界の中で最も緊密な同盟国」だと強調した。中国へと傾斜しつつある韓国を日・米の側に引き寄せる狙いがあったのだろう。だが、その2日前に朴大統領は中国の習近平国家主席と会談し、オバマ大統領の努力が空しくなるような内容のやり取りを行っていた。

 中国はハルビン駅に、日本の初代首相の伊藤博文を暗殺した安重根の記念館を開設しており、習主席はこれについて「私が直接指示した」のだと語った。さらに日本が朝鮮を植民地として統治していた時代に抗日部隊「光復軍」なるものが駐屯していたという西安にも、石碑を建設中であると述べた。これは朴大統領の要望したものなのだが、いわば「反日共闘」の姿勢を露骨なまでに鮮明にしたわけだ。2日後の日・米・韓首脳会談に冷や水を浴びせるのが狙いだったとしか思えない。

 
 こうなると、日本は米国を頼りにするほかないのだが、昨年12月の安倍首相の靖国神社参拝や、その後、取り巻きの“お友達”などが米国批判を繰り返したことなどで、日米間にもきしみが生じていると感じざるをえない。

 ところで、6月にロシアのソチで開かれることになっていたG8が、ベルギーのブリュッセルでロシアを外してG7として開催されることになった。ロシアがクリミア半島を武力を背景に自国に編入したことに、米国とEUが憤激したためだ。

 G8がロシアを外しG7となったことで、今、中国の存在がクローズアップされつつある。いまや中国は米国に次ぐ経済大国であり、軍事大国である。しかし、その中国がG8にも、もちろんG7にも入っていない。中国もロシアも入っていないG7には意味がなく、実は“Gゼロ”だ、という意見すらある。

 ズバリ言えば、いま、米国・EUとロシアは、中国の奪い合いを演じているのだ。米国・EUがG8からロシアを外すのは、制裁としてロシアの孤立を図っているのだが、もし中国がロシアにつけば、ロシアは孤立状態ではなくなる。中国はロシア、さらに米国・EUを引っ張り込んでG20というかたちで世界を仕切ることを狙っているのである。

 
 一方の日本は中・韓と対立し、米国ともいま一つしっくりいっていないが、ロシアとは友好な関係を保っている。安倍首相は、オバマ大統領よりもプーチン大統領のほうが相性が良さそうで、すでに5回も会談を重ねている。

 世界の主要国がそれぞれの思惑で、複雑かつ容易ならぬ緊張状態を呈している中、日本がことを平和裏に収める動き方はできないものか。

 例えば、緊張を緩和し、平和のバランスを取り戻すためと懸命に米国を口説いて、米国とロシアの会談をセッティングする。米国とロシアを取り結ぶのは中国しかないと説得して、中国も参加させる。そして、経済上の関わりが深く、本気ではロシアを怒ってはいないEUを、プライドを傷つけないように参加させる。いま安倍日本に求められているのは、その意欲と度胸である。

週刊朝日  2014年4月11日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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