現在の抗がん剤治療において、最大のトピックスが、新しいタイプの抗がん剤「分子標的薬」の誕生だ。

 分子標的薬は1990年代から主に欧米で開発が始まった。日本では2001年、イマチニブが慢性骨髄性白血病に対して保険適用になったのを皮切りに、現在は肺がん、乳がん大腸がん、腎がんなどのがんに対し、二十数種類以上の分子標的薬が使われている。

 日本医科大学武蔵小杉病院(川崎市)腫瘍内科部長の勝俣範之(のりゆき)医師は「分子標的薬の登場で、抗がん剤治療は今世紀に入ってもっとも進歩したがん治療といえる」と話す。

「白血病などの血液のがんだけでなく、乳がんやGIST(消化管間質腫瘍)などの固形がんでも、完治が可能な例が出てきています。また、海外では難治性の皮膚がんである悪性黒色腫や、一部の甲状腺がんにも、分子標的薬が使われています。日本ではいずれの薬も治験中ですが、近々、保険適用となり、使えるようになるのではないでしょうか」(勝俣医師)

 分子標的薬は従来の抗がん剤と違うところは、その効き方にある。

 従来の抗がん剤は、“じゅうたん爆弾”のように攻撃する。がん細胞だけでなく、正常な細胞まで傷つけるため、重い副作用が起こっていた。これに対し、分子標的薬はスナイパーのようにがん細胞にある特有の分子(受容体やがん増殖因子)を狙い撃ちする。ピンポイントで作用するため、従来の抗がん剤で見られるような副作用は起こりにくくなった。一方で、新たな副作用が起こることがわかってきた。

 投与法では、効き方の異なる複数の抗がん剤を一緒に用いる「多剤併用療法」が主流となった。多角的にがん細胞をたたくことで効果を高められ、抗がん剤を使い続けると起こる耐性(薬の効きが鈍くなること)ができにくいといった利点がある。

 また、手術の前後に使って、目に見えないがん細胞をたたく「術前化学療法」「術後化学療法」が、乳がんや大腸がん、胃がんなど多くのがんで標準治療になっている。食道がんや子宮がん、頭頸部がんなどでは放射線治療と併用することもある。

週刊朝日  2014年4月4日号