世界各国に受け入れられた「おしん」のように、J-POPは今後どれだけ世界進出できるか。写真左端が稲田朋美氏 (c)朝日新聞社 @@写禁
世界各国に受け入れられた「おしん」のように、J-POPは今後どれだけ世界進出できるか。写真左端が稲田朋美氏 (c)朝日新聞社 @@写禁

 稲田朋美氏(55)を司令塔に、コンテンツやファッション、食や飲料といった日本の文化を世界に広めるクールジャパン。これまで何度も挑戦してきたが、成功に至らなかった理由は、政治家の縄張り争いがあった。本誌記者の渡辺哲哉が調査した。

 過去、クールジャパンを標榜する政策は政府内にいくつもあった。報告書もあまたある。政府のど真ん中の政策である「経済成長戦略」にも、しっかりと書き込まれてきた。だが各省庁が個別に海外展開を目指したり、政権に推進力がなかったりで前進しなかったのが実情だ。その反省から稲田氏を司令塔とし、調整に当たらせることになった。

 クールジャパンに絡む省庁は多岐にわたる。経産省を始め、農産品や和食の売り込みに躍起の農林水産省。広報外交の担い手で、海外の出先である大使館や領事館を管轄する外務省。伝統的な芸能の振興を図る文化庁。そして2003年に「ビジット・ジャパン・キャンペーン」として、訪日外国人旅行者数1千万人突破を目標に掲げた国土交通省などだ。

 ただでさえ縄張り意識が強烈な霞が関のこと、「ドラマの輸出一つとっても、規制官庁の総務省がやるのと、産業振興として経産省が手がけるのとでは意味合いが違ってくる」(内閣官房)。

 まとめ役として内閣官房に知的財産戦略本部があるが、「力が弱く、十分な調整機能や推進力はない」(同前)という。

 縄張り争いといえば政治家も同様だ。04年にコンテンツ振興法が成立する過程でこんな逸話がある。

 その前年、現経済財政相の甘利明氏(64)が、「コンテンツ産業振興議員連盟」を自民党内に立ち上げる。甘利氏を会長とし、現外相の岸田文雄氏(56)、現農水相の林芳正氏(53)、現内閣官房副長官の世耕弘成氏(51)が中心メンバーだった。主導した甘利氏は「『おしん』が80~90年代にかけて中東を中心にブームとなり、日本への親しみがうんと増した。コンテンツは外交、経済戦略に使える」と考え、コンテンツ“産業”振興法の成立を目指す。

 映画や音楽、アニメ、ゲームなどコンテンツ分野の競争力強化を目的とし、知的財産権の適正な保護や事業の海外展開の支援も盛り込んだ。甘利氏や岸田氏は商工族。これにライバル心を燃やしたのが旧郵政族、文教族議員らだった。

「一番かみついてきたのが日本維新の会にいる片山虎之助元総務相。当時は参院自民党の実力者で、『こんなもの閣議決定で十分じゃないか』と言っていた。要は商工族に主導権を握られて面白くなかったということ。ギリギリの折衝をして、法案名からは経産省的臭いがする“産業”を抜くことで決着した。経産省と総務省の代理戦争だった」(当時の関係者)

 商工族の結束の固さは党内でもトップクラスだ。党商工部会長を務めた議員が閣僚になると、歴代会長から、会長名がずらりと入った盾が贈られる。それだけに他の分野の族議員との主導権争いは、どうしても激化する。ちなみに04年1月、国会で初めてクールジャパンという言葉を使ったのも、商工族の額賀福志郎元財務相(70)だった。

週刊朝日  2014年4月4日号