<平日夜間・土日祝日・お泊まりもOKです>

 氾濫するこんなネット上の募集に、わが子を預けるリスクがひそむことをみせつけた埼玉のベビーシッター死体遺棄事件。

離婚はしたけど、勤務中、子どもは同居しているおじいちゃんに預けているから大丈夫と聞いていたので、シッターを使っているとは知らなかった。相談してくれていれば、力になれたかもしれない……」

 被害男児の母親(22)が勤めていた、横浜市磯子区のJR新杉田駅前繁華街にある飲食店の女性オーナーは、こう肩を落とした。

 凶事が明るみに出たのは3月17日。埼玉県富士見市のマンションの一室で、口をふさがれ窒息死したとみられる山田龍琥(りく)君(2)の遺体が発見された。同じ部屋で保護された生後8カ月の弟、龍琥君とも衣服を着けていなかったという。

 死体遺棄容疑で逮捕されたのは、この部屋に住む物袋(もって)勇治容疑者(26)だ。物袋容疑者はネット上の仲介サイトを使ったシッターとして活動。「モッチー」の愛称を名乗り、自身のサイトでは、<子どもたちとたくさん遊んでたくさん笑ってたくさん仲良くなりたいです>と自己紹介していたが、過去に龍琥君を預かり、トラブルを起こしていたという。

 そのため、今回は母親に対し、偽名を名乗り、わざわざ代役の男性を待ち合わせ場所の新杉田駅に派遣。14日夜、龍琥君と弟を2泊3日の予定で預かった。だが、15日の午前以降、音信不通になり、息子2人を心配した母親が警察に通報し、事件が発覚した。

 前出のオーナーによれば、母親は子どもを預けた14日と15日の20~24時まで、飲食店に出勤していたという。勤務を週3日に増やした矢先の悲劇だった。

 実は物袋容疑者が育ったのは、龍琥君の自宅に近い磯子区内の公営団地だ。両親、妹との4人暮らしだった。同棟の女性の証言。

「保育士だった母親のしつけが厳しかったようで、小さい頃は叱責の声が家の外まで聞こえていた。妹とは仲が良くていつも一緒にいたけど、同年代の友達と遊んでいる姿は、あまり見た記憶がない」

 地元の小中学校を卒業後は、調理師免許を取得。運送会社に勤めたこともあったというが、数年前には、子どもを抱いて家に帰る姿が目撃されていた。

「車の座席にチャイルドシートがついていたので、お母さんに『お子さんができたんですか?』と聞いたら、『ベビーシッターをしているんです』と言っていたのを覚えています」(同じ棟に住む別の女性)

 ちなみに、この実家の部屋は物袋容疑者のサイト上でシッター会社の「本部」と紹介されていたが、看板などは出ておらず、同棟の住民の多くも、物袋容疑者の職業を知らなかった。

 謎の多い事件だが、現代的なのは、ネット上のシッター仲介サイトが舞台となった点だ。シッター仲介サイトは多くの場合、登録に特別な資格や身元確認は必要なく、プロフィルとメールアドレスの入力だけで済む。とある仲介サイトを覗くと、匿名シッターの書き込みが無数に並んでいた。

<◯◯(片仮名2文字のニックネーム)、19才、料金:話をしてから、資格:なし、自己紹介:唯一の長所は笑顔です。◯◯県内なら大丈夫です。……>

 代金は1時間あたり500~千円程度が主流。派遣会社にプロのシッターを頼んだ場合と比べ、相場は約半額以下だ。事件を受け、仲介サイトの“野放し”の実態を問題視する声もあがり始めたが、シングルマザーの貧困問題に詳しいライターの鈴木大介氏は語る。

「仲介サイトは公的な福祉を受けづらい親のセフティーネットになっている面がある。リスクもあるが、急な用事ができた時、他に安く預かってくれる所がどれだけあるのか。もし規制されたら、夜の仕事に就くシングルマザーなど、困る人が大勢いる」

 だとすれば、利用者が危険を防ぐためにはどうすればいいのか。シッター仲介サイト「アイシッター」の由利哲平代表はこう語る。

「私どものサイトは実名が原則のフェイスブックを通して登録してもらっています。ただ、誰に子どもを預けるかは最終的には自己責任。事前に一度会ってみて、不安を感じたらやめたほうがいいですし、身分証のコピーなどをもらっておくという手もあります」

 悪質シッターに遭遇しないためには、自己防衛が欠かせない。

(本誌・小泉耕平、福田雄一)

週刊朝日  2014年4月4日号