ホワイトボードに続々と書き込まれるベア回答 (c)朝日新聞社 @@写真
ホワイトボードに続々と書き込まれるベア回答 (c)朝日新聞社 @@写真

 日本企業が重い腰をようやく上げ始めた。今年の春闘で「満額回答」をするなど、従業員の月給やボーナスの引き上げに動き出したのだ。

 それにしてもどうして、ここにきて企業の賃上げが相次いだのか。

 理由の一つは、企業業績の回復にある。財務省の法人企業統計によると、日本銀行の金融政策「異次元の金融緩和」によって円安が進んだ結果、昨年10~12月、日常的な儲けを示す経常利益が過去最高となった。

「今回の春闘をみると、賃上げ余力のある会社ほど高い水準のベア(ベースアップ)となったといえます」(三菱UFJリサーチ&コンサルティングの尾畠未輝研究員)

 実際、円安の恩恵のあった自動車や電機などは、全体的に高い水準だった。

 とはいえ、これまでは業績が回復しても、企業が儲けを懐にしまい込んでしまい、給料に反映されなかった。小泉純一郎内閣の時代を思い出してほしい。2002年から07年までは戦後最長の景気拡大となり、企業業績は回復した。だが、この間、年間の給料は20万円も減ってしまったのだ。企業が儲けを「内部留保」と呼ばれる貯金として、ため込んでしまったからだとされる。

 今回は何が起きたのか。

「政府の役割も非常に大きかった。政府がかつての労働組合の役割を果たしたと言っていい」(前出の尾畠氏)

 安倍政権は、経済団体の経団連、労働団体の連合と協議を重ね、賃上げを再三要請してきたのだ。「賃上げの原資」として、復興特別法人税の1年前倒しでの廃止も決めた。政権の“介入”については、あるべき賃金交渉の姿をゆがめているとして、批判も多い。だが、日本総合研究所の山田久チーフエコノミストは、こう指摘する。

「バブル崩壊以降、企業は人件費を抑制してきました。将来に対する不安がぬぐえず、守りの姿勢に徹してきたのです。とはいえ、企業がリスクを取らないと、経済の規模は縮小する一方です。巨額の財政赤字を抱え、このままでは将来的に財政破綻になりかねません。今回は必要悪だったと考えています」

週刊朝日  2014年3月28日号