頭痛の診断や脳ドックなどで使われるMRI(磁気共鳴断層撮影装置)。検査台に横たわり、ドーナツ状の強力な磁石の中に入るだけで、体内の臓器や血管の状態を鮮明に映し出す画像診断装置だ。エックス線を使わないので被ばくの心配もない。効果と侵襲(しんしゅう)性の両面で優れた診断技術であるMRIだが、一つだけ欠点がある。「音」だ。

 経験者ならご存じだろうが、MRIの検査は撮影が始まってから終わるまで、被験者は常に大音量の中に身を置くことになる。その音量は100デシベルを超える。これは電車が走るガードの下や、道路工事現場にいるのと変わらない。

 そのためMRI検査には「耳栓」が必須アイテムなのだが、それでも大音量に辟易(へきえき)する人は少なくない。MRIメーカーにとって「低騒音」は永遠のテーマなのだ。

 そんな中、低騒音どころか静音、もっと言えば「無音」と言っても過言ではないMRIが開発された。2013年秋に世界一斉発売された「サイレントスキャン」という機能を搭載したMRI装置だ。発売元のGEヘルスケア・ジャパンMRセールス&マーケティング部長の内海一行氏が解説する。

「検査台にのって機械の内部に入り込めば、かすかに撮影音が聞こえますが、装置の外で聞く限りほぼ無音です。初めてこの装置を使う人は、本当に作動しているのかと不安になるほど」

 あれだけうるさかったMRIが、なぜここまで極端に静かになったのか。それを知るには、「なぜ従来のMRIはうるさかったのか」を理解する必要がある。

 MRIの内部には磁石があり、さらにはその内側にはコイルがある。ここに電流を流すことで特殊な磁場が発生する。この磁場の働きによって、体内の水素原子から受け取った信号をもとに断層画像を作り出していく。

 このときにコイルには、およそ650アンペアという大電流が流れる。しかも電圧がプラスとマイナスを行き来する交流電流なので撮像中は電流が変化する。この電流の変化に合わせてコイルが振動するため騒音が生じるのだ。

 そこで、電流の変化が小さい「ほぼ直流」の状態で従来どおりの撮影が可能なMRIを――と考え、具現化したのがサイレントスキャンなのだ。

「この機械が開発されていること自体、社内でもトップシークレットでした。私たちがその存在を知ったのは、発表の半年ほど前。しかも『そのようなものを作っているらしい……』という噂レベルでしたから」と内海氏は苦笑する。

 日本では大学病院などの高度医療施設を中心に導入が進んでおり、昨年末の時点で4カ所、3月末までにさらに20施設で稼働する予定だ。

「今後は、脳ドックや小児の検査での利用に特に期待しています。今は対象が頭部領域ですが、将来的には体幹部にも対応できるよう準備中」(内海氏)

 何十年か後、「昔のMRIってうるさかったんだよな……」という会話が交わされるのだろうか。

週刊朝日  2014年3月28日号