注射で泣き叫ぶ子供。こんな光景も過去のものになるかも……(写真はイメージです) (c)朝日新聞社 @@写禁
注射で泣き叫ぶ子供。こんな光景も過去のものになるかも……(写真はイメージです) (c)朝日新聞社 @@写禁

 注射恐怖症とよばれる人たちがいる。注射器の針を皮膚に刺すことに異常なまでの恐怖感を抱き、その恐怖のあまり発汗、動悸、過呼吸、そして失神に至ることもある。これは極端な例だが、注射が好きな人はいない。針を刺されるときの痛みは人類共通だ。

 そんな「穿刺(せんし)時の痛み」を大幅に軽減する取り組みが進んでいる。

 兵庫県西宮市にあるベンチャー企業ライトニックスでは、痛みを極限まで小さくした採血針を商品化。日本とアメリカでの販売に漕ぎつけた。

 この針はいわゆる注射針ではない。糖尿病患者などが血糖値を測定する際に微量の血液を採取するときに指先に刺す針だ。穿刺によって出るわずかな血液を試験紙で拭うことで血糖値を測定する仕組みなのだが、この穿刺が意外に痛いのだ。

 糖尿病患者は1日数回採血し、そのたびに指先に針を刺す。そのときの痛みを軽減してくれるのがこの針なのだ。

 モデルになったのが「蚊」。蚊は人の皮膚に針を刺して吸血するが、針を刺されても人は痛みを感じない。ならば蚊と同じ構造の針を作れば、痛みのない穿刺が可能なのではないか––と考えたのが始まりだ。

「従来の針は円筒形ですが、蚊の針は側面がギザギザで、皮膚に接する部分が少ない。つまり抵抗が小さいので、痛みを感じにくいのです」と語るのは、同社代表でこの針を開発した福田光男氏。

 同氏は、従来の金属ではなく手術用の「溶ける糸」の素材であるポリ乳酸を原料に、側面がギザギザの針を開発した。

 注射針と違って内部は空洞ではない。刺した後に出血がないと意味がないので、細すぎても用をなさない。

 そのため針の太さが、蚊の針の0.08ミリに対して、0.4ミリと5倍もあるが、針の断面を「円」ではなく「平たい板状」にするなどの工夫により、従来の金属針と比較して穿刺時の痛みを大幅に減少させることに成功した。

「溶ける素材なので環境にもやさしい。金属製の針は使用後に医療機関に戻さなければならないけれど、この針は家庭用ゴミとして処理できる自治体もある。あらゆる面で“人にやさしい針”ということができます」と福田氏。

「痛くない」「溶ける素材」という利点を利用すれば、将来的には体内に留置して時間をかけて溶出するような薬剤の投与にも利用の可能性がある。「痛くないワクチン」も、現実味を帯びてきたというわけだ。

週刊朝日  2014年3月28日号